研究課題/領域番号 |
23K08171
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山下 公大 神戸大学, 医学部附属病院, 特命准教授 (80535427)
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研究分担者 |
藤田 貢 近畿大学, 医学部, 准教授 (40609997)
掛地 吉弘 神戸大学, 医学研究科, 教授 (80284488)
齋藤 雅史 神戸大学, 医学研究科, 助教 (80826321)
高村 史記 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (90528564)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 直腸癌 / 化学放射線療法 / レジデントメモリーCD8+T細胞 (TRM) / CD8+T細胞 / 細胞間相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究は、直腸癌に対する術前化学放射線治療(NACRT)の効果と長期予後を予測するための新たなバイオマーカーの探索を目的としている。特に、腫瘍内レジデントメモリーCD8+T細胞(TRM)に着目し、独自開発の病理診断人工知能を基盤としたイメージングサイトメトリー「Cu-Cyto(キューサイト)」を用いて、腫瘍及びリンパ節における空間的構造情報の解析を行う。本研究では、NACRT後の直腸癌患者の病理組織標本(腫瘍組織、リンパ節)を用いて、治療効果及び予後予測因子を同定し、病理学的完全奏効(pCR)例のリンパ節を解析し、pCR予測因子を探索する。さらに、CRTマウスモデルを用いて、TRMの分化機構を解明する。これらの解析により、直腸癌における腫瘍免疫微小環境(TIME)の理解を深め、術前治療の効果予測や治療選択モデルの構築に貢献することが期待される。また、TRMを標的とした新たな免疫療法の開発にも繋がる可能性がある。本研究の成果は、直腸癌患者の術前治療戦略の最適化に寄与し、個別化医療の実現に向けた重要な一歩となるだろう。さらに、TRMの分化機構の解明は、がん免疫療法全般の発展にも貢献すると考えられる。Cu-Cytoによる詳細な解析と、マウスモデルを用いた基礎研究を組み合わせることで、直腸癌に対する革新的な治療法の開発が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
直腸癌に対する術前化学放射線治療(NACRT)後の腫瘍免疫微小環境(TIME)を解析するため、多重免疫組織化学染色条件の設定が完了し、深層学習アルゴリズムに基づくイメージサイトメトリー「Cu-Cyto」のアノテーション作業を経て、直腸癌のプログラムが完成した。サンプルの染色を行い、Cu-Cytoでの解析所見と病理医による顕微鏡での評価所見に大きな矛盾がないことから、一定の精度でTIMEを構成する細胞の識別が可能であることが確認された。特にCD8+TRM(CD103+CD8+T細胞と定義)の検出精度は90%以上を達成している。 また、細胞間相互作用を数値化する共局在指標(CLI)の解析プログラムを整備中であり、腫瘍細胞とCD8+T細胞の組み合わせにおいて、CLI高値群で良好な無再発生存期間を示す結果が得られている。Cu-Cytoの利点を活かし、識別可能な10種類以上の細胞についてCLIを算出し、治療効果の評価指標としてより適した組み合わせを自動化することで、効率的な評価方法の確立を目指している。 細胞検出アルゴリズムの検出精度管理については、近く成果をまとめることが可能であり、CLIの意義に関する報告の準備も進めている。全体の進捗状況としてはやや遅れが生じているものの、解析基盤の効率化、転移学習の精度向上、CLIの最適化を進めることで、研究の加速を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
Cu-Cytoによる直腸癌の腫瘍免疫微小環境(TIME)解析は、概ね順調に進行している。学習段階ごとの細胞識別精度評価を自動的に行えるシステムの構築が進んでおり、近日中に報告予定である。このシステムにより、Cu-Cytoの性能評価がより効率的かつ正確に行えるようになると期待される。 Co-localization index (CLI) の解析については、自動化プログラムを作成中である。このプログラムが完成すれば、TIMEにおける様々な細胞間相互作用を網羅的かつ迅速に評価することが可能となり、治療効果予測に有用なバイオマーカーの同定が加速すると考えられる。 本研究では、直腸癌の進展過程におけるTIMEの動的変化を詳細に解析するため、大腸癌の自然発生モデルの採用を検討しているが、導入は未だできていない。このため、モデルマウスを卵巣癌に変更することも検討する。これらのモデルを用いることで、新たな治療標的の同定や、より効果的な免疫療法の開発につながると期待される。 今後は、Cu-Cytoの性能評価システムの確立、CLIの自動解析プログラムの完成、およびマウスモデルの作成を着実に進めることで、直腸癌に対する新規術前療法の開発を加速させていく方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスモデル実験に関して、自然発生モデルの取得に難渋している。卵巣癌の自然発生モデルに変更することも検討する必要性がある。このため、マウスなどの導入額が次年度使用となる。
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