研究実績の概要 |
膵癌は5年生存率8%と極めて予後不良な癌腫で国内の死亡者数は増加しているにもかかわらず既存の化学療法は満足のいく成績でない。近年、免疫チェック阻害薬が癌薬物治療のキードラッグになりつつあるが、膵癌はPD-L1発現が低く、局所のリンパ球やネオアンチゲンが少ないため、免疫チェック阻害薬の効果は乏しく、治療成績の向上のためには新たな治療法の開発が急務である。ウイルス療法は“がん治療用ウイルス”によって癌細胞を直接破壊し、抗腫瘍免疫応答を賦活化させ抗腫瘍効果を誘導する新しい概念のがん治療法である。 そこで本研究では、がん治療用ウイルスFUVACを用いて免疫環境を免疫反応のないコールド腫瘍から免疫応答の活性化したホット腫瘍に変化させることで、免疫チェックポイント阻害薬抵抗性の膵癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性と新たな治療法の可能性を検証することに取り組み、本年度は以下の成果を得た。
K-rasやp53など様々な遺伝子変異を持つ7種類のヒト膵臓がん細胞株を用いて、ウイルスの腫瘍溶解作用を評価した。その結果、EC50に必要なウイルス量(MOI)に換算すると、AsPC1, AsPC1/CD44v9, MiaPaca2は約3、Panc1, Panc10.05は約0.1、BxPC3, SW1990は約0.01であった。又、全ての膵臓がん細胞において、FUVACは細胞融合能がない従来のウイルスと比べ高い細胞傷害作用が確認され、細胞融合による強力な腫瘍溶解作用を有することを示した。一方、ヒト膵臓がん細胞株に対してマウス膵臓がんPan02細胞株ではFUVACの感受性が低く、EC50は10以上であった。
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