研究課題
過去10年間に福島県立医科大学消化管外科で胃切除術を施行された胃癌患者401症例の手術摘出標本に対しIHCを実施し、HER2発現レベルを評価したところ、HER2陽性症例は全体のおよそ10%(40症例)であった。胃癌のHER2陽性症例はHER2発現の不均一性が高いことが報告されており、当科のHER2陽性胃癌症例の75%(30症例)においてHER2不均一発現が観察された。このHER2発現の高い不均一性がHER2陽性胃癌の腫瘍微小環境評価の複雑さに関係しているものと考え、HER2不均一発現を呈するHER2陽性胃癌症例のHER2陽性領域とHER2陰性領域におけるCD8陽性T細胞数および腫瘍細胞内STING発現レベルを比較することでHER2シグナルが胃癌の腫瘍微小環境に及ぼす影響に関し検討を行った。その結果、CD8陽性T細胞数および腫瘍細胞内STING発現レベルはともにHER2陽性領域においてHER2陰性領域と比較し有意に低下していることが明らかとなった。また、HER2不均一発現を呈するHER2陽性胃癌症例において腫瘍細胞内STING発現レベルとCD8陽性T細胞数の間に有意な相関が認められた。したがって胃癌のHER2シグナルが腫瘍細胞内STING発現を低下させ、CD8陽性T細胞浸潤低下に関与する可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
胃癌症例を用いてHER2シグナルが腫瘍微小環境、特に腫瘍細胞内STING発現やCD8陽性T細胞浸潤に及ぼす影響を解析することができている。
今後の研究では、胃癌細胞株を用いたin vitroの解析によりHER2シグナルが胃癌の腫瘍微小環境に及ぼす影響を分子レベルで解析する。具体的には、HER2陽性胃癌細胞株およびHER2陰性胃癌細胞株のSTING発現レベル、I型IFN、CXCL9/10/11などのケモカイン産生レベルを比較する。また、HER2陽性胃癌細胞株をHER2 siRNAやHER2チロシンキナーゼ阻害剤で処理することでHER2シグナルの活性化を阻害した際に、STING発現やSTING経路の活性化が促進するか否か検討を行う予定である。
本年度の研究では、申請者が所属する研究室で共通した試薬、抗体、キット、消耗品などを活用することができたため、新規の物品購入費が生じにくかったなどの理由により、次年度使用額が生じた。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Gastric Cancer
巻: 26 ページ: 878~890
10.1007/s10120-023-01417-x