研究課題/領域番号 |
23K08277
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
相澤 啓 自治医科大学, 医学部, 教授 (50398517)
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研究分担者 |
木村 直行 自治医科大学, 医学部, 教授 (20382898)
坂元 尚哉 東京都立大学, システムデザイン研究科, 准教授 (20361115)
中村 匡徳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20448046)
川人 宏次 自治医科大学, 医学部, 教授 (90281740)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 慢性大動脈解離 / 数値流体力学研究 / 壁せん断応力 / 血管平滑筋細胞 |
研究実績の概要 |
慢性大動脈解離において、血行力学ストレスが大動脈拡大を促進させる可能性が示唆されているが、偽腔大動脈中膜を構成する血管平滑筋細胞への壁せん断応力(wall shear stress; WSS)の負荷が偽腔壁を拡大させるかは不明である。本研究は、慢性大動脈解離例を対象に、真腔大動脈壁とWSS高・低部の偽腔側大動脈壁の組織像やMMP発現を比較し、WSS負荷が偽腔大動脈組織に及ぼす生体反応を解析する。また、血管平滑筋細胞単培養に0Pa(生理的条件)~20PaのWSSを負荷後、網羅的遺伝子発現解析を行い、WSSの直接負荷環境で血管平滑筋細胞の恒常性変化に関与する機序の解明を目指す。 研究初年度の2023年度は、倫理委員会承認の元、大動脈解離症例の検体採取を開始し、2例の慢性大動脈解離症例の大動脈解離検体を採取した。現在、大動脈組織検体の採取段階であり、今後、急性大動脈解離組織検体の採取も開始する予定である。 in vitro実験に関しては、共同研究機関である東京都立大学システムデザイン学部坂元尚哉准教授の研究室で、shear stress負荷が大動脈組織構成細胞に及ぼす影響を調査している。2024年度は、高壁せん断応力負荷用に開発した圧縮コラーゲン組織(C6)を用いて血管壁を模擬した内皮―平滑筋細胞共培養モデルを構築し、高い壁せん断応力が平滑筋細胞の表現型転換へ及ぼす影響を検証した。共培養モデルに対し大動脈内の生理的な環境として2 Paと20 Paの高WSSを24時間負荷したところ、20 Paの高WSS環境下では、収縮型平滑筋細胞マーカーαSMAおよびCalponin1発現が2 Paと比較して減少することを見出した。本結果は、高WSSが血管平滑筋細胞の表現型転換を引き起こす可能性を示唆した。本結果は、2023年度日本平滑筋学会(2023年8月4・5日東京大学)で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究初年度にあたる2023年度は、自治医科大学倫理委員会の承認の元、待機的に人工血管置換手術を行う慢性大動脈解離症例を対象として、大動脈組織検体の採取を開始した。大動脈組織検体の採取前に、共同研究機関である名古屋工業大学機械工学部医用生体工学研究室(中村匡徳教授研究室)において、数値流体力学計算(computational fluid dynamics: CFD)解析によるWSS mappingを行い、同mappingガイド下に低/高WSS部位での偽腔壁大動脈組織、真腔大動脈組織、及び内中膜フラップ組織を採取した。引き続き、CFD血流解析と大動脈組織検体の採取を継続して行うとともに、急性大動脈解離と慢性大動脈解離の組織構造(炎症所見・弾性線維構造など)の変化も、本研究プロジェクトで調査する予定である。 大動脈組織の構成細胞である血管内皮細胞と血管平滑筋細胞の共培養のin vitro実験は、現在、東京都立大学システムデザイン研究科(坂元尚哉准教授研究室)と共同で実施している。これまで、高WSS負荷用に開発した圧縮コラーゲン組織(C6)を用いて大動脈血管壁組織を模擬した血管内皮細胞-血管平滑筋細胞共培養モデルを開発することに成功している。今後は、本実験モデルの他、慢性大動脈解離の偽腔壁構造に類似した血管平滑筋細胞が直接血行力学ストレスに暴露される実験モデルを導入し、血行力学ストレスが血管内皮細胞や血管平滑筋細胞の恒常性変化に及ぼす影響を解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、名古屋工業大学機械工学部医用生体工学研究室と共同で、慢性大動脈解離症例の臨床データを使用したCFD血流解析実験を継続する予定である。具体的には、待機的手術を行う慢性B型大動脈解離症例を対象として、偽腔圧/真腔圧比の他、真腔・偽腔それぞれでWSSや血液灌流量を計算し、多くの血行力学パラメーターを使用して慢性大動脈解離症例の血流動態を評価する予定である。 また、炎症細胞浸潤による組織変化が高度である急性大動脈解離における大動脈組織と、慢性大動脈解離組織の構造変化を、免役組織染色実験で調査する予定である。これまで、大動脈損傷のマウス実験モデルでは、大動脈外膜に存在する前駆細胞が血管平滑筋様細胞に変化し、大動脈における初期の炎症反応やその後の組織修復を誘導すると報告されている(J Surg Res. 2020;245:1)。大動脈解離発症後の慢性期における大動脈組織修復機構を、ヒト検体を用いて調査した研究は少ない。今後、大動脈修復に関与すると報告されているCD31+細胞や他の大動脈組織由来の血管平滑筋前駆細動の発現、急性期・慢性期の大動脈解離組織で調査する予定である。 in vitro実験に関しては、今後も東京都立大学システムデザイン研究科と共同で行う予定である。血管内皮細胞-血管平滑筋細胞共培養モデルの他、血管平滑筋細胞の単培養モデルを使用して、様々なWSS負荷が血管内皮細胞や血管平滑筋細胞の恒常性変化に及ぼす影響を解析する予定である。尚、本研究モデルでは、ヒト大動脈由来の血管内皮細胞と血管平滑筋細胞を購入して、実験に使用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年は、ヒト組織検体を使用した実験を開始していないため、今回1,071,245円の次年度繰越金が発生した。尚、2023年度は、ヒト大動脈細胞株購入費用、細胞培養関連費用 (培地作成・維持に関連した試薬購入費など)、PCR/ウエスタンブロッティング実験関連費用など、in vitro実験の実施のために本研究の研究費を使用した。2024年もin vitro実験は継続する予定であり、本研究プロジェクトの研究費から細胞培養関連費用を支出する予定である。 今後、ヒト大動脈組織においても、免役組織染色やPCR実験を実施する予定であり、2024年度の実験関連費用の支出として、免役組織染色における各種抗体購入費用や核酸実験に関連した費用(cDNA合成費用・各種プライマー購入費用など)を予定している。 その他、CFD血流解析のための設備投資としてコンピューターのメモリ増設費用や専用の血流解析ソフトウエア(SC flow)の関連費用、核酸実験後のバイオインフォマティクス解析費用などを、本研究プロジェクトの研究費から支出することを検討している。
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