研究課題/領域番号 |
23K08372
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
植木 隆介 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (10340986)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 糖尿病 / ピグアナイド系薬剤 / 乳酸アシドーシス / SGLT2阻害薬 / 糖尿病性ケトアシドーシス / ミトコンドリア / 骨格筋 / 周術期 |
研究実績の概要 |
骨格筋の細胞培養モデルとして、マウス骨格筋芽細胞C2C12細胞を継代培養して、経過をみた。その培養過程の中で、飢餓ストレスの反応をみるため、10%FBS(ウシ胎児血清)添加DMEMの培地の交換頻度を2日から10日まで段階的に変化させた状態で、細胞増殖の状態を観察した。その状態で細胞の生死に関して、アポトーシス・ネクローシス・生細胞の判定キットで細胞死とその形態を記録、検討した。 これらは、周術期の状況を想定した、術前の経口摂取が不可能な状態や悪性腫瘍による悪液質、絶飲食時間の飢餓ストレスのモデルとしても検討できると考えられた。 また、これらより細胞実験モデルにおける筋肉細胞の低栄養状態、いわゆる高齢者を始めとしたサルコペニアの評価モデルとして代用できる可能性が考えられた。 さらに、骨格筋への分化誘導を行うために、2%HS(ウマ血清)添加DMEM培地による交換頻度も上記の如く変化させると、骨格筋の分化速度の減速が形態学的に観察された。これらの細胞に、ビグアナイド系、SGLT2阻害薬の薬剤をincubationし、経過を観察している。さらに、ミトコンドリア膜電位を定量する色素(JC-1)を用いて、定量評価を行った。これに加え、酸化ストレス(H2O2など)が加わったときの、ミトコンドリア障害(膜電位低下)を検討している。また、この状況で各種の薬剤(Coenzyme Q10など)の治療効果を検討している。 これらの過程で生じるミトコンドリア障害から細胞死に至る過程の変化を、アポトーシス・ネクローシス・生存細胞を分別する染色キットを用いて、顕微鏡での蛍光観察法で確認し、データを収集、解析である。 2023年度の学会参加で、周術期の糖尿病性ケトアシドーシス・乳酸アシドーシスについても、高血糖を来さないケトアシドーシスの症例の事例など、学会参加等で知見を収集している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
立案時の計画に基づき、大学内の共同研究施設で細胞培養を継代しながら、引き続き実験を行っている。2023年4月からは、2020年から3年間継続したコロナ禍も終了し継続的に実験に取り組めている。臨床業務の合間を活用して、地道に研究活動を継続していく。 その他、細胞モデルとしては、他の細胞系でも再現性が得られればと考えて進めている。すなわち、骨格筋細胞のモデルとなるC2C12細胞以外にも、PC12細胞も培養を開始・継続して、比較対象として取り組んでいる。その結果、低栄養の環境下では、同様の死細胞の増加や細胞増殖能の低下が認められ、同様の兆候が得られている。これらについても、筋肉細胞と神経系細胞モデルの違いがあるかを知ることは、意義があると考えている。酸化ストレスと細胞障害と麻酔薬の影響については、PC12細胞についての結果を、2024年3月16日の日本集中治療医学会学術集会で発表した。今後、論文作成につなげたい。
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今後の研究の推進方策 |
マウス骨格筋芽細胞C2C12細胞の継代培養を引き続き継続していく。ビグアナイド系薬剤、SGLT2阻害薬のincubationはそれぞれの臨床濃度と試薬自体の希釈濃度の調整を行う必要があり、これらの培養細胞への細胞障害を引き起こす濃度に関しては、過去の他の実験での結果や経験も参考にする。各種濃度に対する細胞障害の程度を浮遊細胞のセルカウンターによる計測、ネクローシス・アポトーシス・生細胞の判定キットやTrypan blue染色などで、比較検討しながら、実験系の確立・推進に最適な濃度を確認中である。C2C12細胞は10%FBS(ウシ胎児血清)添加DMEMの培地で培養し、骨格筋への分化誘導を行うために、2%HS(ウマ血清)添加DMEM培地で分化を促進させるが、その過程で、分化開始後の期間も研究結果に与える影響は大きいと推測される。未分化の状態、7日後、14日後、21日後の4ポイントを目安にそれぞれの時期において、それぞれの試薬(メトホルミンに代表されるピグアナイド系薬剤、各種のSGLT2阻害薬)での実験に適した条件を確認・検討している。酸化ストレスや手術侵襲・麻酔侵襲の刺激となる追加刺激の濃度設定や時期についても、細胞実験の制限された条件と臨床との関係をよりシンプルな形で検討できるように検討を重ねていく。 検討中のミトコンドリア機能低下(ミトコンドリア膜電位の低下)に対して、各種のミトコンドリアに対して保護的に作用する薬剤(抗酸化・抗炎症作用のある薬剤、Coenzyme Q10など)の治療効果を検討する。 これまでの結果や継続中の実験の結果をまとめて、学会発表をめざす。さらに、学会発表の結果を踏まえて、結果の収集と考察を行い、論文作成を目指す。 臨床では、特にピグアナイド系薬剤、SGLT2阻害薬の術前中止ができない緊急手術症例のフォローを十分に行い、臨床面からも研究の発展につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2024年度使用額は、2023年度の所要額と実支出額の差額であり、繰り越しの手続きを行い、次年度の経費として有効に使用する予定である。研究に必要な細胞培養用dishや培養液、ピペットなどの消耗品、ビグアナイド系薬剤、SGLT2阻害薬の各種薬剤、ミトコンドリア蛍光色素を始めとする試薬など各種消耗品の購入費などの使用を予定している。
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