研究課題
近年、薬物療法を中心とした癌治療の発展により、進行癌症例の治療成績は飛躍的に向上している。しかし、転移性脳腫瘍に対しては、これらの発展した薬物療法の恩恵が乏しく、放射線治療や外科的治療が中心的な治療法となっている。この状況を踏まえると、進行癌症例のさらなる治療成績の向上には、転移性脳腫瘍に対する新規治療法の開発が急務であると言える。本研究は、転移性脳腫瘍の原発巣として最も多い肺癌に対する新規治療法として、CAR-T療法の開発を目的としている。研究初年度である2023年度には、まずパラフィン包埋転移性脳腫瘍検体を組織切片化し、CD3、CD19、CD27、CD38、CD45、および各種ケモカイン受容体等の多重染色による同定を行っている。この結果は、深層学習アルゴリズムを用いた病理組織解析システムであるCu-Cyto画像処理にて解析されている。現在進行中のこのプロセスにより、三次元リンパ構造(tertiary lymphoid structures: TLS)内に特異的に集積する腫瘍関連B細胞(tumor-associated B lymphocytes: TAB)のみが選択可能な抗体コンビネーションが決定される。以前の研究にて、TLS内にTABが存在することが示され、また、TLSは転移性脳腫瘍においても存在が確認されているため、転移性脳腫瘍に特異的なキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor: CAR)を作成するためにはこの工程が極めて重要である。抗体コンビネーションの決定後、培養可能な状態でTABが抽出でき次第、Ecobody法を用いて抗腫瘍抗体情報の取得を試みる。この結果から、CARコンポーネントに適した抗体が選別される。
3: やや遅れている
三次元リンパ構造(tertiary lymphoid structures: TLS)の同定はできたものの、TLS 特異的に集積する腫瘍関連B細胞(tumor-associated B lymphocytes: TAB)のみを選択的に認識する抗体コンビネーションの決定に時間を要している。今後の転移性脳腫瘍に特異的CARを作成するための最重要工程であるため、慎重に進めているためであり、この工程をクリアできれば以降はスムーズな進行が予測される。
現在三重大・名古屋大からの技術支援を得られるようになり、レンチウイルスベクターに関する遺伝子配列が確定できる見込みである。今年度には in vitro での CAR-T 遺伝子確認、in vitro での CAR-T 細胞機能的実験が実施できる予定である。最終的には免疫不全マウスを用いたマウス転移性脳腫瘍モデルにCAR-T療法の治療実験を行う。
特異的CAR作成のための抗体コンビネーションの決定に時間を要しているため、次のCAR導入用のレンチウイルスベクターを作成する過程に到達していない。このため、次年度の使用額が生じている。この抗体コンビネーションの決定は本研究において最も重要な過程であり、時間を要するがこの過程が通過できれば以降の研究遂行はスムーズになる予定である。
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