研究課題/領域番号 |
23K08578
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研究機関 | 地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院(第1診療部、第2診療部、第3診療部 |
研究代表者 |
森實 飛鳥 地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院(第1診療部、第2診療部、第3診療部, 中央市民病院, 再生医療研究部 部長 (10528730)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | iPS細胞 / ドパミン神経 / パーキンソン病 / 再生医療 / 移植 |
研究実績の概要 |
パーキンソン病に対する人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた再生医療の基礎研究が実を結び、2018年より本邦にて臨床試験が行われた。ドナー細胞製造では分化誘導による不均一性の克服のため、細胞表面マーカーに対する抗体を用いたソーティング(細胞選別)が行われる。ただし、ソーティングは時間と労力を要し、ドナー細胞製造でのボトルネックとなっている。また、ソーティング後は細胞ストレスによる脆弱化が顕著であるため、細胞塊として3次元培養することにより細胞死を防ぐ工夫を行っている。細胞塊は細胞の生存率は高まるものの、凍結保存が難しくなるという課題が生じ、現行の臨床試験ではドナー細胞を凍結することなく、症例毎に細胞製造を行っている。本研究ではソーティングフリーで、凍結可能なドナー細胞の大量製造を目指した次世代の分化誘導法を確立する。従来のプロトコルではウシ血清由来の非特定成分(knockout serum replacement)を含んだ培地を使用していたが、本研究では化学的に特定された(chemically defined)成分のみでの分化誘導に成功した。さらに新規誘導因子の添加により、分化誘導の効率が高まった。表面マーカーによるソーティングをせずとも、90%以上の分化誘導効率を達成した。誘導された細胞の特性解析を行い、必要とするドパミン神経のマーカーが発現していることを確認した。また、ソーティングが不要なため、高効率での細胞凍結が可能となった。凍結、解凍の際の条件検討を行い、タイミング、方法などを至適化した。さらにそのようにして準備されたドナー細胞を免疫不全マウスの線条体に移植したところ、3ヶ月後の組織学的評価で成熟ドパミン神経の充分な生着を確認し、腫瘍化などの副作用は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では広く流通している1231A3というヒトiPS細胞株を用いて実験を行っている。この細胞株では期待通りの結果が出つつあり、分化誘導効率が90%以上を確保できている。次は他の細胞株でも同様の実験を行う必要がある。というのも、iPS細胞からの分化誘導では同じプロトコルでも結果が大きく異なることが経験されているからである。それぞれの株でプロトコルの至適化を行う必要がある。例えば、ドパミン神経を誘導する場合、Wnt刺激因子であるCHIR99021という化合物を使用するが、その濃度は0.5~2μMの間で0.1μMごとに小刻みに濃度を細胞株ごとに調整する必要がある。その他の因子についてもいくつかの調整を要する。例えば、ドパミン神経誘導にはShh系のシグナルを入れて、神経管の腹側を誘導する必要があるが、株によって加える因子の濃度や組み合わせ、タイミング等を調整する必要がある。このような背景から、本課題では複数の株を使用して研究を進めていく。また、in vitroで至適化されたプロトコルにより誘導されたドパミン神経前駆細胞を免疫不全マウスの線条体に移植し、移植後のドパミン神経移植片の生着、成熟を組織学的に確認する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本邦で行われているパーキンソン病に対する再生医療の臨床試験において、現行の細胞製造では凍結保存を行わず、細胞塊という形状のドナーの移植という方法を用いている。初期の臨床試験という場面では、少数の症例をコストをかけて治療するこの方法が成り立つ。しかし、次のステージでは大量生産、安定供給、効率性などが要求される。本研究ではこれまでに大量生産へむけた分化誘導法の確立と、凍結保存技術の確立を行っている。今後はこれらのドナー細胞を実験動物に移植し、移植後の機能改善を確認し、移植後の効果と安全性を高めていく必要がある。また、前述のように複数の株での再現性も確認していく必要がある。というのもiPS細胞の利点として、患者自身の細胞から作成したiPS細胞を利用した自家移植の可能性が将来的に検討されるからである。その場合、各々の細胞株に関して、分化誘導法を至適化しなければ利用できない。自家移植ではないにしても、HLA型を合わせた適合移植、HLA分子を低発現にした低免疫原性iPS細胞株などの利用が将来的には考えられている。いずれにしても、分化誘導がうまくいく細胞株だけを使用していても、この治療を多くの患者に広く普及させることができない。細胞株ごとに行うプロトコルの至適化についても効率よく行う手順を確立する必要がある。さらに関係企業に技術導出していき、本研究の成果をスムーズに臨床応用できるように務める必要がある。
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