研究実績の概要 |
2023年度は頸椎症性脊髄症、胸椎黄色靱帯骨化症、胸椎椎間板ヘルニア症の合計6症例を対象として、術中神経生理学的モニタリング(intraoperative neurophysiological monitoring, IONM)下に上記症例の手術を施行した。本年度は、IONMとして現在最も多く用いられている経頭蓋刺激・運動誘発電位(transcranial stimulation motor evoked potential, Tc-MEP)に加えて、脊髄刺激・運動誘発電位(spinal cord stimulation motor evoked potential, Sp-MEP)を用いてどの誘発電位がIONMに有用であるかを検討した。結果として、術前下肢筋力低下が高度な症例ではTc-MEPが記録できないことがしばしば存在したが、そのような症例においてもSp-MEPは記録可能である事が多かった。まだ症例数が少なく感度、特異度について十分検討するに至っていないが現時点では、特に下肢運動麻痺の強い症例ではTc-MEPが記録できない場合でもSp-MEPは記録する事が可能である傾向があり、Sp-MEPはIONMに有用である可能性が考えられた。しかしながらIONMを施行するに当たって、いくつかの問題点も明らかになった。技術的な問題として、Sp-MEPを記録する際に刺激用電極として脊髄硬膜外腔へカテーテル電極を術野頭側に挿入する必要があるが、特に頸椎部では安定した設置が困難な場合が存在したので今後安定した固定方法を確立する事が課題となった。一方、胸椎疾患においては刺激用のカテーテル電極を安定して脊髄硬膜外腔に設置する事が可能であった。また、仰臥位から腹臥位に体位変換を行う際に下肢運動麻痺が生じた可能性がある症例が存在した。今後、下肢麻痺の高度な症例では体位変換前後でIONMを施行する必要性が明らかとなったが、どの誘発電位が適しているかについては今後の課題である。
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