研究課題/領域番号 |
23K08688
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山田 勝久 北海道大学, 大学病院, 助教 (20771893)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 高純度骨髄間葉系幹細胞 / ソフトバイオマテリアル / 椎間板性疼痛 |
研究実績の概要 |
本研究では、組織修復能を有するバイオマテリアルである生体吸収性アルギン酸ナトリウムと、超高純度骨髄由来間葉系幹細胞を併用した椎間板再生治療法が、椎間板性疼痛に関連する炎症性サイトカインや神経成長因子受容体に与える影響を評価し、本治療が椎間板性疼痛の軽減に有用であるかを検討することで椎間板障害性腰痛患者に対する次世代型治療として臨床応用へと展開するための基盤を確立することを目的とした。 今年度は、ラット椎間板穿刺変性モデルへのアルギン酸ナトリウムと超高純度骨髄間葉系幹細胞の混合液の注入方法を確立し、炎症性サイトカインと神経成長因子の評価を行った。本研究ではゲル化させない高純度アルギン酸ゾルと高純度ヒト他家骨髄間葉系幹細胞であるRapidly Expanding Cell(REC)の混合液を投与しその効果を評価することを目的とした。 ソフトバイオマテリアルと幹細胞投与方法の検証として、SDラット尾椎椎間板髄核に19G針を穿刺し椎間板変性モデルを作成し、26G針を用いて穿刺部とは別経路で質量対容量比濃度2%に調整したアルギン酸ゾルとRECの混合液を注入した。本手法により、注入した混合液が穿刺部から漏出しないことを確認した。本モデルを用いて注入後1、4、7、28日目に椎間板を採取し、免疫組織化学染色による炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)、神経成長因子受容体TrkAの発現について陽性細胞率を評価した。アルギン酸とRECの混合液を注入した群では、髄核穿刺群、アルギン酸単独注入群に比べ、TNF-α、IL-6、TrkA陽性細胞率が有意に低値であった。 本研究結果より、アルギン酸ゾルとRECの混合投与は椎間板性疼痛に関連するサイトカインと神経成長因子の発現を抑制する効果があることが明らかとなり、椎間板性腰痛に対する疼痛抑制効果を有する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画は、椎間板変性に伴う疼痛に対する高純度アルギン酸と骨髄間葉系幹細胞の混合投与の効果を明らかにするため、ラット椎間板穿刺モデルを用いて炎症性サイトカインおよび神経成長因子受容体の発現と疼痛関連行動を評価することとしており、3年の研究期間内に以下の研究を予定している。 ①椎間板性疼痛に関連するサイトカインと神経成長因子の評価 ②疼痛関連行動評価 これらの研究計画のうち、ラットモデルを用いた①のin vivo研究が順調に進んでおり、ラット椎間板穿刺変性モデルへのアルギン酸ナトリウムと超高純度骨髄間葉系幹細胞の混合液の注入方法を確立し、椎間板性疼痛に関連するサイトカインと神経成長因子の評価を行った。 アルギン酸ゾルと高純度ヒト他家骨髄間葉系幹細胞であるRapidly Expanding Cellの混合投与は椎間板性疼痛に関連するサイトカインと神経成長因子の発現を抑制する効果があること示された。すなわち、椎間板内の炎症性サイトカイン産生を抑制することによって、椎間板変性部の疼痛軽減に寄与すると考えられた。さらに、神経成長因子受容体の発現が抑制されたことから、椎間板性疼痛に関連する椎間板への神経新生が阻害される可能性が示された。これらの結果より、生体吸収性アルギン酸ナトリウムと超高純度骨髄由来間葉系幹細胞の混合椎間板内投与は、椎間板性腰痛に対する疼痛抑制効果を有する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究予定のうち、今後は以下の研究計画を中心に進める予定としている。 ①ラット尾椎椎間板穿刺モデルを用いた椎間板組織変性に与える影響の評価 ②同モデルを用いた疼痛関連行動の解析 今年度ラット尾椎椎間板穿刺変性モデルへのアルギン酸ナトリウムと超高純度骨髄間葉系幹細胞の混合液の注入方法を確立しており、本モデルを用いて組織学的評価を行い、未処置非変性椎間板、髄核穿刺椎間板、アルギン酸単独注入椎間板、アルギン酸+REC混合注入椎間板の各群で比較することで椎間板組織変性抑制効果を確認する。また、ラットの疼痛関連行動評価として、術前、術後にHargreaves test、Tail-flick test、von-Frey testを行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では現在ラット尾椎椎間板穿刺モデルを用いた研究を進めている。ラット尾椎椎間板穿刺モデルについてはこれまでの研究に準じて問題なく作成でき、椎間板内への高純度硬化性ゲルおよび骨髄間葉系幹細胞の充填が可能であることが確認できている。 ラットモデルにおいては免疫組織評価だけではなく、疼痛関連行動評価を予定している。疼痛関連行動評価のための治具の購入や設定に関して、コントロールのラットを使用したセッティングを行っているが、測定のばらつきが大きいなどの調整および設定に時間を要したため、実験用動物や試薬の購入のための予算に関して次年度使用額が生じている。現在疼痛関連行動評価の設定は完了しており、予定通り実験用動物および試薬購入に充てることを計画している。
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