研究課題/領域番号 |
23K08760
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
松尾 朋博 長崎大学, 病院(医学系), 講師 (60622024)
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研究分担者 |
大庭 康司郎 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (20593825)
光成 健輔 長崎大学, 病院(医学系), 講師 (70866657)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 膀胱癌 / 尿路上皮腫瘍 |
研究実績の概要 |
我々は、癌細胞の増殖や腫瘍免疫と関連するHippo経路と膀胱癌との関連について研究を実施している。2023年度は、ヒトの膀胱癌組織検体を用い、特に筋層非浸潤性膀胱癌の臨床病理学的特徴と、Hippo経路のコアコンポーネントを形成するセリン/スレオニンキナーゼであるLATS-1/2の発現との関連について、免疫組織学的手法を用いて詳細に検討した。 LATS-1/2は尿細胞診陰性患者で強く発現していたが、細胞診陽性患者では強発現していた患者は少なかった。pTaおよびpT1症例を比較すると、LATS-1/2の発現はpTa症例において顕著だった。さらに、いわゆるHigh gradeおよびHigh riskの筋層非浸潤性膀胱癌では、LATS-1/2の発現はLow gradeおよびLow/Intermediate riskの患者に比べて低かった。これらの結果を反映して、レトロスペクティブに検討した結果、LATS-1/2が高発現の患者群では初回の経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)後に抗がん剤やBCGの膀胱内注入療法を施行された患者の割合が低かった。さらに、2nd TURBTを施行された患者の割合もLATS-1/2染色陽性群では少なかった。また、LATS-1/2のヒト膀胱癌組織における発現は細胞増殖能のマーカーであるKi-67と負の相関を示し、筋層非浸潤性膀胱癌における重要な病理学的マーカーとなり得ることを解明した。 一方で、いわゆる早期の筋層非浸潤性膀胱癌では、LATS-1/2の発現は全生存期間や無再発生存期間に影響を与えないことも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度においてはヒトの膀胱がん組織検体を用いた実験を通じて、筋層非浸潤性膀胱癌の臨床病理学的特徴と、Hippo経路のコアコンポーネントであるLATS-1/2の発現との関係を免疫組織学的手法により詳細に分析した。この分析から、LATS-1/2が筋層非浸潤性膀胱癌の診断および治療における重要なマーカーである可能性が示唆された。特に、LATS-1/2の発現は尿細胞診陰性患者で高く、さらなる臨床応用への可能性を示した。 これらの研究結果は、LATS-1/2の発現が治療選択に影響を及ぼす可能性があることを示しており、特に初回の経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)後の治療介入の必要性が低い患者群の特定に寄与する。また、LATS-1/2と細胞増殖マーカーKi-67との間に見られた負の相関関係は、新たな治療標的の発見に向けた重要な手掛かりを提供することが可能である。 以上の結果より、これまでのところ本研究課題は順調に進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度に関しては、ヒトの筋層浸潤性膀胱癌の組織検体を使用し、LATS1-2の発現と臨床病理学的な因子との関連を明らかにする。また、LATS1-2と膀胱癌との関連をさらに明らかにするために、膀胱癌細胞株や動物モデル用いた研究を進めて行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度の研究では主に免疫組織化学染色や尿中バイオマーカーなどの実験物品等に多くの予算を割いた。次年度繰越金として2,742円が発生したがほぼ予定通りの支出金額であると判断する。繰越金に関しては次年度に実験ノート等で消化する予定である。
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