研究課題/領域番号 |
23K08781
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
柴田 泰宏 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 講師 (10534745)
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研究分担者 |
鵜川 眞也 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (20326135)
安井 孝周 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (40326153)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 膀胱 / 酸感受性イオンチャネル / 膀胱壁内pH / 局所アシドーシス環境 |
研究実績の概要 |
過活動膀胱は罹患率が高く、その患者数は日本国内に800万人超と推計される。同病態はQOLやADLを著しく低下させることから、健康長寿に向けて対策の重要性が叫ばれている。OABで見られる尿意切迫感は、その発生機序から排尿筋過活動による膀胱平滑筋の急な収縮の結果と、膀胱の知覚そのものの過敏とに分類できる。しかし、現在使用されている治療薬剤の標的は排尿筋の弛緩をターゲットとしており、膀胱の知覚そのものを治療標的とする薬剤は未だに無い。尿意の異常、蓄尿量センサーとしての膀胱の知覚異常は複数のベクトルに分類される。具体的には尿意切迫感を特徴とする過活動膀胱、症状が激烈な間質性膀胱炎、そして慢性感染などのリスクを伴う低活動膀胱などである。これらの病態を深く理解するためには「尿意とは何か」を深く知る必要がある。しかし、この問に対する明確な答えは未だに無い。 排尿時の膀胱の生理的環境に注目したとき、膀胱内圧は健常人の平常蓄尿時では5cmH2O程度であり、教科書的には15~20cmH2Oで尿意を感じるとされる。さらに排尿筋過活動を生じた際には膀胱内圧は最大で30~50cmH2Oに達し、強い切迫感を伴う。ここで毛細血管の静脈圧(20cmH2O程度)に注目してみると、尿意が生じるレベルの膀胱内圧は静脈圧とほぼ拮抗している。しかし、蓄尿時の膀胱血流や、血流に影響があった場合に予測されるpH変動についての知見は報告されていない。このため膀胱の知覚についての総合的理解および尿意発生の根本の解明に向けてこれらの生理学的、解剖学的な基礎的情報を得ることを目標として本研究室においてこれまでに作出してきた酸感受性イオンチャネルの各種ノックアウトマウスおよびノックインマウス実験計画を立案し遂行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当教室では現在までにASIC1a、ASIC1b、ASIC3およびASIC4ノックインマウスが利用可能となっている。さらに現在ASIC2a, 2bノックインマウスの作出を開始し、当該年度において納品された。現在F0マウスを交配し、バッククロス交配をF2まで進めている。新規に作出したASIC2a, ASIC2bのノックインマウスはCRISPR/Cas9システムを用いての遺伝子改変動物作出であるため、off targetでの切断や挿入の有無を確認するため、可能性が高いと考えられる高スコアのゲノム配列についてシークエンスを読み、いずれも問題の無いことを確認している。低スコアの配列については今後バッククロス交配を進め、確率論的に問題の無いレベルであるF7での解析を行う予定である。これらを用いて膀胱組織のASIC分子の局在を確認するためノックインしたTagタンパクを標的として蛍光免疫組織化学染色を行う予定である。蛍光が得られない場合は必要に応じて増感法を用いるなどして局在を検討する。いずれも対照群としてTag-negativeである野生型マウスを使用できるため通常の免疫染色法と比較して高い感度および特異度が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに作出したタグペプチド融合ASIC2aノックインマウスおよびASIC2bノックインマウスのバッククロスを早期に進めるとともに、解析を開始する。現時点において前記2系統のF1マウスを用いて、ウエスタンブロッティングおよび免疫染色による抗体評価、タグ分子の標識能力評価を順次開始している。バッククロスが終了した段階でマウスをホモ化し、ASICファミリーの各サブタイプの局在について詳細な検討を行う。 また、ASIC4について、標識タグノックインマウスを用いた解析を続けると同時に、ROSA26ASIC4Creマウスが現在当研究室にて利用可能な状況となっている。このマウスとmCerry発現レポーターマウスを利用し、感度を更に改良してASIC4の局在を観察するための準備を現在行っている。 本年度の予算にて細径微小プラスチックpH電極を購入している。現在同プローブを用いた組織内pH測定系を立ち上げている。これにより膀胱壁内pHの動態の測定を加速させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、ASIC2aノックインマウスおよびASIC2bノックインマウスの2系統の標識タグノックイン動物と、その副産物として得られたASIC2aノックアウトマウスおよびASIC2bノックアウトマウスを作出した。その際に使用したgRNAのoff targetによる想定外遺伝子の切断やノックアウト化を検証し除外するために一定の時間を要した。このため、想定よりやや進行が遅れている。また、これとは逆に想定よりもスムースに遺伝子組換えによるノックインマウスを作出することが可能であったことから、当初想定していたよりも少ない試行回数でこれらの遺伝子組換え動物を作出することができた。これら2点が組み合わさり、想定した使用金額を下回ることとなった。来年度以降、バッククロスによる想定外変異の除去を行うと共に、申請に記載の各種実験項目を加速していく予定である。
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備考 |
特記事項無し
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