研究課題/領域番号 |
23K08808
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山上 亘 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (30348718)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 子宮体癌 / 妊孕性温存療法 / 分子遺伝学的分類 / Genetic panel testing / Immunohistochemistory / 黄体ホルモン療法 / オルガノイド |
研究実績の概要 |
本研究は,AYA世代の子宮体癌や前がん病変である子宮内膜異型増殖症(atypical endometrial hyperplasia, AEH)の妊孕性温存療法の初発治療,再発治療の治療効果や予後を予測できる臨床病理学的因子や分子生物学的因子,遺伝学的因子,免疫関連因子などを網羅的に明らかにし,新たな治療戦略を開発することを目的としたものである. 子宮体癌またはAEHと診断され,当院で初回治療から治療された患者のうち,妊孕性温存療法で病変の消失を認めた241例(AEH110例,類内膜癌G1 126例,G2 5例)を抽出した.そのうち、再発例は135例(AEH45例,類内膜癌G1 87例,類内膜癌G2 3例)であり,再度妊孕性温存療法を施行した症例は92例(AEH34例,類内膜癌G1 56例,類内膜癌G2 2例)であった.そのうち,Keio Women's Biobankに同意のうえ、登録されている症例を選別し,臨床病理学的因子やホルモン療法の詳細(治療期間,治療用量),腫瘍予後および妊娠予後情報を診療録から抽出した.また,初発時および再発時の治療前の子宮内膜全面掻爬のHE染色標本を鏡検した.初発・再発ともにDNAやRNAの抽出が可能なほどの十分な腫瘍量を認めるFFPEを有する症例の選別を試みたが,特に適切な再発時のFFPEを有する症例は少量であった.現在,初発時治療開始前の子宮内膜全面掻爬検体のFFPEより35例分のDNAを抽出している. また,新たに子宮体癌およびAEHで妊孕性温存療法を予定している若年症例について,子宮内膜全面掻爬検体からオルガノイドを樹立し,それを用いてin vitro,in vivoの解析を行うこととした.10例(AEH6例、類内膜癌G13例、漿液性癌1例)からオルガノイドの抽出を試み、うち6例で樹立が可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた妊孕性温存療法の初発時,再発時のFFPEの収集作業であるが,再発確認時の再発巣の腫瘍量が少ないことが多く,ときに子宮内膜生検でのみ腫瘍組織(AEHまたは子宮体癌組織)を認めるものの,子宮内膜全面掻爬検体には腫瘍組織がごく少量であり,生検組織からも全面掻爬検体からも、DNAやRNA抽出に十分な組織量を確保できない症例が,想定以上に多いことが判明した. そのため,初発時組織からDNAやRNAを抽出することとして再発治療時の治療成績の解析を進め,また,新たにオルガノイドを樹立して,解析を行うこととした.
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今後の研究の推進方策 |
① 遺伝子パネルシーケンスを用いた網羅的解析:被検者の初回治療前の腫瘍組織のFFPEより抽出したDNAを用いた遺伝子パネルシーケンスを行う.慶應義塾大学病院ゲノム診療ユニットが開発したPleSSision-Rapid検査(対象:143遺伝子,POLE,MMR遺伝子を含む,Copy numberの評価やTMB,MSIスコアも算出可能)を用いたターゲットシーケンスを行う.解析結果は生物統計学者によるアノテーション後に,これらの結果と組織型,初回および再発時のMPA療法の病変消失率・治療期間,再々発率,妊娠率などの臨床病理学的因子や予後の関連性の解析を行う. ② MMR遺伝子変異例に関する生殖細胞性変異の解析:MMRタンパクの免疫組織化学染色を行い,陽性例とパネルシーケンスにてMMR関連遺伝子変異を認めた症例のすり合わせを行い、血液を用いたMSI解析も行う. ③ トランスクリプトーム解析:被験者の初回治療前の腫瘍組織のFFPEより抽出したRNAを用いたRNAシーケンス(RNA-Seq)を行う.初回治療前の腫瘍組織が十分に採取されており、かつRNA濃度およびDV200値の評価を行った上で,RNA-Seqが可能と考えられる品質のRNAが採取できた症例に限り、遺伝子発現解析を行う。組織型,初回および再発時のMPA療法の病変消失率,治療期間,再々発率,妊娠率などの臨床病理学的因子や予後の関連性の解析を行う. ④ 予後予測因子の解析:パネルシーケンスおよびRNA-Seqと臨床病理学的因子や予後との解析結果を統合し,病変消失や再発,妊娠などを予測できる因子の抽出を行う. ⑤ オルガノイドの樹立:妊孕性温存療法施行前の子宮内膜全面掻爬検体を用いてオルガノイドを樹立し,樹立前組織との発現解析の比較を行うとともに,新たな治療候補薬剤のスクリーニングを行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
端数額(725円)のみ使用できず、繰越予定である。次年度の消耗品に使用する予定である。
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