研究課題/領域番号 |
23K08898
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
白砂 孔明 東京農業大学, 農学部, 教授 (20552780)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | NLRP3インフラマソーム / 妊娠高血圧症候群 / 炎症 |
研究実績の概要 |
妊娠高血圧症候群は母子共に異常を伴う治療が困難な疾患である。本病態では胎盤の低酸素により血管新生阻害因子であるsoluble fms-like tyrosine kinase 1(sFlt1)分泌が増加し、母体の血管内皮障害や慢性炎症が誘導されると考えられているが、詳細な機序は不明である。妊娠高血圧症候群は非感染性の疾患であると想定されることから、自然炎症を制御するNLRP3インフラマソームの関与が考えられる。本研究では、NLRP3インフラマソームの下流でパイロトーシスを制御するガスダーミンを中心として、それらの重要性を解明する。 細胞レベルの検討において、妊娠高血圧症候群の病態要因であるsFlt1の分泌メカニズムを検討している。免疫細胞の単球・マクロファージを活性化させることでsFlt1がGasdermin D(GSDMD)依存的に分泌される機構があることが分かった。また、NLRP3インフラマソームやGSDMD活性化に関与するカテプシンBに着目し、カテプシンB抑制剤を処理するとsFlt1分泌が抑制されることも判明した。 生体レベルの検討において、高血圧を誘導するモデルを用いた検討により、GSDMDが高血圧の誘導に関与する可能性が分かってきた。また、流産(胚吸収)を誘導するモデルを用いた検討により、NLRP3インフラマソームの活性化を抑制することにより胚吸収が改善できる可能性が分かってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
妊娠高血圧症候群の病態要因であるsFlt1の分泌メカニズムを検討した。免疫細胞の単球・マクロファージを活性化させるとGasdermin D(GSDMD)が活性化すると共にsFlt1分泌が増加した。GSDMD欠損型のマクロファージではsFlt1産生および分泌が低下した。NLRP3インフラマソームやGSDMD活性化にはリソソーム障害によるカテプシンBの放出が関与することが分かっているため、カテプシンB阻害剤であるCA074MEを処理したところ、sFlt1分泌が低下した。一方、このsFlt1分泌においては細胞死を伴わないことも判明した。 妊娠高血圧症候群や流産の病態モデルとして、既に確立したアンギオテンシンII(AngII)の持続投与モデルやLPS投与モデルを採用し、NLRP3インフラマソームやGSDMDの重要性を検討している。妊娠マウスを用いた検討の事前検討として、非妊娠雌マウスにAngIIを持続投与する試験を実施したところ、野生型マウスでは高血圧が誘導されたがGSDMD欠損マウスでは血圧上昇が抑制された。また、妊娠マウスにLPSを投与すると胚吸収率が増加したが、予めNLRP3インフラマソームの阻害剤であるMCC950を投与しておくことでLPSによる炎症反応が抑制され、胚吸収率も軽減することが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
GSDMDやリソソームがsFlt1分泌機構を制御していることが分かってきたため、その詳細な分子メカニズムを細胞レベルで解析する。また、単球・マクロファージ以外の細胞についても同様の検討を進め、細胞依存的な差異なども検討する。 妊娠中に高血圧を誘導し、GSDMD欠損やGSDMD・リソソームの抑制剤を投与した状態での変動を検討する。また、妊娠高血圧腎症の病態では胎盤を中心として母体の肝臓や腎臓に機能障害が起きるため、この臓器連関の存在について、細胞外小胞を中心に機序を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
8010円の残額が次年度使用となるが、ほぼ予定通りの使用状況であった。
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