研究課題/領域番号 |
23K08899
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
原 弘之 日本大学, 医学部, 准教授 (70228625)
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研究分担者 |
加藤 侑希 日本大学, 医学部, 助教 (60733649)
平井 宗一 日本大学, 医学部, 教授 (70516054)
岩田 卓 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (30296652)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 子宮頸がん / CAR-T細胞療法 |
研究実績の概要 |
近年、キメラ抗原受容体遺伝子導入(CAR)-T細胞療法の固形がんへの適応が期待されている。しかし固形がんでは、CAR-T細胞が活性化する場である腫瘍微小環境中の免疫抑制克服法が開発されていない、腫瘍特異的な標的抗原が見つかっていない、という大きな課題が障壁となって未だに十分な臨床効果が得られていない。 代表者はこれまでの研究で、免疫抑制環境を改善し、T細胞の癌殺傷能力をさらに増強する分子として、脂肪酸不飽和化酵素(stearoyl-CoA desaturase1:SCD1)を同定した。さらに、最適な標的抗原の候補として、グリピカン1(GPC1)を同定するに至っている。本研究では、代表者が独自に同定したSCD1およびGPC1を標的として、子宮頸がんに対する効果的な、新規CAR-T細胞療法の開発を目指す。 まず、GPC1を標的とすることの妥当性を評価するために、子宮頸がん組織におけるGPC1の発現を、RT-qPCR、Western blot、免疫組織化学染色などで評価した。その結果、子宮頸がん組織では正常子宮頸部組織に比し、GPC1を高発現しており、治療標的として有望である可能性が示唆された。次に、代表者がこれまでの研究で、免疫抑制環境を改善しT細胞のがん殺傷能力をさらに増強する分子として同定しているSCD1の阻害が、CAR-T細胞の抗腫瘍効果を増強するかin vitroで検証した。その結果、SCD1阻害剤の添加により、CAR-T細胞の細胞増殖能および細胞傷害性サイトカイン産生能が著明に増強されることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の、初年度の研究計画は、次の2つであった。1)子宮頸がんに対するCAR-T細胞療法の標的抗原としてのGPC1の妥当性の検証、2)SCD1阻害剤がCAR-T細胞に直接作用し抗腫瘍効果を増強しうるかの検証、を行う。 1)においては、患者検体を用いて、正常子宮頸部組織と子宮頸がん組織におけるGPCの遺伝子・タンパク発現レベルを評価し、GPC1が子宮頸がんに対するCAR-T細胞療法の標的抗原候補となることを明らかとした。2)においては、SCD1阻害剤が、CAR-T細胞の細胞増殖能、IFN-g産生能、がん細胞に対するkilling activityを増強することを明らかとした。 以上より、現時点において、研究は滞りなく進捗しており、ほぼ満足できる達成度であると考えている。尚、納品の遅延により次年度使用額が生じたが、研究自体の進捗は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、SCD1阻害剤がCAR-T細胞のエフェクター機能および抗腫瘍活性を増強する分子メカニズムの解析を行う予定である。具体的には、過去の報告からSCD1阻害が、細胞内コレステロール代謝を介してT細胞の抗腫瘍活性を制御する可能性が示唆されており、まずは、このpathwayを解析する。また、担癌マウスモデルを用いて、GPC1-CAR-T細胞とSCD1阻害剤の併用in vivo抗腫瘍効果を精査する予定である。併用効果が確認された場合には、そのメカニズムを明らかにするために、腫瘍組織内の各種免疫細胞(CD8陽性T細胞、制御性T細胞、M1/M2マクロファージ、myeloid-derived suppressor cellなど)の免疫染色やフローサイトメトリーを用いた評価などを行う。更に、安全性を評価するために、併用治療開始後、急性(投与後24h以内)および亜急性(投与後1ヶ月以内)時期にマウスを解剖し、組織学的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
in vivoでの抗腫瘍効果増強作用を検証するため、阻害薬を購入予定であった。しかし、バルクでの発注のため受注生産になってしまったこと、海外からの取り寄せ品であったことが理由で、年度内に納品することが困難であった。 次年度初期には納品予定であり、当初の使用計画を大きく変更することなく研究を遂行する予定である。
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