研究課題/領域番号 |
23K08953
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
森田 真也 北海道大学, 大学病院, 講師 (80443951)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ANCA関連血管炎性中耳炎 / 好酸球性中耳炎 / 好中球細胞外トラップ / 好酸球細胞外トラップ / DNaseI活性 |
研究実績の概要 |
近年では、好中球や好酸球から放出される細胞外トラップ(ETs)形成がANCA関連血管炎性中耳炎や好酸球性中耳炎などの難治性中耳炎の発症に関与していることが示唆されている。本研究の目的は、難治性中耳炎患者の臨床検体やマウスを用いて、ETs形成-分解経路と病態に対する関与を解明し、診断や疾患活動性を評価する新規のバイオマーカーおよび治療ターゲットを探求することである。 2023年度の研究では、「被験者から採取した臨床検体を用いて耳鼻咽喉科領域での好中球および好酸球ETsの存在を確認する」、「被験者から採取した臨床検体を用いて好中球および好酸球ETs分解能を評価する」ことを行った。 まず、蛍光顕微鏡を用いた画像解析で中耳貯留液を観察したところ、難治性中耳炎患者から採取された中耳貯留液ではETsの形成が確認できた。次に、cell-free DNA、シトルリン化ヒストンDNA複合体などのETs代謝産物をELISA法で定量的な測定を行ったところ、難治性中耳炎患者から採取された中耳貯留液では、これらのETs代謝産物の発現レベル値が高値を示した。さらに、ETsを分解するDNaseI活性を測定したところ、難治性中耳炎患者においてはDNaseI活性が低下していた。ETs代謝産物の発現レベル値とDNaseI活性は負の相関関係を示していることから、ETsの過剰形成と分解能低下が難治性中耳炎の発症と重症度に関与していると示唆された。 2024年度以降は、「DNase阻害剤またはDNaseノックアウトマウスを用いてETsが分解されることなくどこでどのような障害を与えるのか」、「ETs形成阻害または分解活性によって難治性中耳炎の発症が抑制できるのか」を検証する。最終的には、臨床的側面との関連性を明らかにし、診断や疾患活動性を評価するバイオマーカーおよび治療ターゲットとして有用性があるかを検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床検体の集積も順調であり、用いる試薬も物流状況の悪化の影響を受けなかったため、基礎研究に関しては進捗状況は概ね順調であった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画としては、下記①~⑥の順に実施する予定としていた。 「①被験者から採取した臨床検体を用いて耳鼻咽喉科領域での好中球および好酸球ETsの存在を確認する。」「②好中球および好酸球ETsをマウス体内に導入して難治性中耳炎モデルマウスを作成し、好中球および好酸球ETsがどこで形成されてどのような組織障害を与えるのかを検証する。」「③被験者から採取した臨床検体を用いて好中球および好酸球ETs分解能を評価する。」「④好中球および好酸球ETs分解能低下は難治性中耳炎の病態に関与するという臨床的仮説を得ることができれば、DNase阻害剤またはDNaseノックアウトマウスを用いて好中球および好酸球ETsが分解されることなくどこでどのような障害を与えるのかを検証する。」「⑤好中球および好酸球ETs形成亢進および分解能低下は難治性中耳炎の病態に関与することが基礎的な研究により裏付けできれば、好中球および好酸球 ETs形成阻害または分解活性によって難治性中耳炎の発症が抑制できるかを検証する。」「⑥好中球および好酸球ETs形成亢進および分解能低下は難治性中耳炎の発症に関与し、その形成阻害または分解活性によって発症が抑制できることが基礎的な研究により裏付けできれば、臨床的側面との関連性を明らかにし、診断や疾患活動性を評価するバイオマーカーおよび治療ターゲットとして有用性があるかを検証する。」 実際に研究が進捗していくと、ETs分解能を評価してからモデルマウス作成に取り組んだ方が良いと考えられたため、2023年度では①③の研究を実施し、2024年度以降に②④⑤⑥の研究を実施する方向となった。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度の研究計画は、「①被験者から採取した臨床検体を用いて耳鼻咽喉科領域での好中球および好酸球細胞外トラップの存在を確認すること」、「②好中球および好酸球細胞外トラップをマウス体内に導入して難治性中耳炎モデルマウスを作成し、どこでどのような組織障害が起こるのかを検証すること」であった。①については既に実験が終了し、②については現在実験を行っているが、好中球および好酸球細胞外トラップ分解能を評価してからモデルマウス作成に取り組んだ方が良いと考えられた。 そこで2024年度の研究計画である「③被験者から採取した臨床検体を用いて好中球および好酸球細胞外トラップ分解能を評価すること」を、2023年度に前倒しして行うことにしたため、研究計画③にかかる経費として主に試薬代を前倒し支払請求することになったが、予定よりも試薬購入に係る費用が抑えられたため、次年度使用が生じた。次年度は計画通り、試薬代や細胞培養およびモデルマウス作成に係る費用として使用する予定である。
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