研究課題
花粉-食物アレルギー症候群(Pollen-Food Allergy Syndrome:PFAS)は原因食物摂取後、数分以内に口唇口腔の掻痒感、しびれ、粘膜浮腫をきたす疾患である。近年罹患率は上昇傾向にあり、生活の質に多大な影響を与えることから注目されているが、有効な治療法がなく、社会問題となっている。アレルゲン免疫療法は、アレルギー疾患に対する根治治療として近年注目されている治療法である。口腔粘膜を利用した舌下免疫療法(sublingual immunotherapy;SLIT)は、スギやダニアレルギーに大変有用であり、また安全に行うことができる治療法として広く行われている。一方で、PFASに対する免疫治療はまだ一般的ではなく、研究段階である。研究代表者は、シラカンバ花粉で全身感作させたマウスにリンゴエキスを経口投与する新規PFASモデルマウスを作製し、モデルマウスを利用した基礎研究を行っている。本研究では、PFASモデルマウスにおけるSLITを用いた減感作療法 (PFAS-SLITモデルマウス) を確立させ、SLITがPFASにおける根治治療の新規治療戦略となる可能性を追求することを目的としている。実験方法として、PFASモデルマウスに3週間の舌下投与を行い、最終日にリンゴエキスを経口投与した後の口かき回数を10分間カウントし、舌下免疫療法による減感作の効果を検証した。舌下免疫の試薬としてリンゴエキスを用いた場合、SLITを行わなかった群と口かき回数に変化はなく、免疫療法としての効果は得られなかった。一方で、舌下免疫の試薬としてシラカンバエキスを用いた場合、SLITを行わなかった群に比べて、口かき回数が減少する傾向にあった。従って、シラカンバエキスを用いた舌下免疫治療はPFASの口腔症状を軽減させるために有効である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、新規PFASモデルマウスにおける舌下免疫療法 (SLIT) を用いたアレルゲン免疫療法 (PFAS-SLITモデルマウス) を確立させ、SLITがPFASにおける根治治療の新規治療戦略となる可能性を追求することを目的としている。PFASモデルマウスにおいて、舌下免疫の試薬としてリンゴエキスやシラカンバエキスを利用し、アレルゲン免疫療法としての効果が得られるかを検証した。PFASモデルマウスでは、リンゴエキス経口投与後に口腔症状としての口かき回数の増加を認めるが、シラカンバエキスを3週間舌下投与することによって、最終日のリンゴエキス経口投与後の口かき回数がSLIT未施行群に比べて低下する傾向がみられた。連日のシラカンバエキスの舌下投与によって、アレルゲン免疫療法としての効果が得られたために口かき回数が低下したと思われた。過去の報告ではヒトを対象とした研究において、シラカンバ-リンゴのPFASに対してBet v 1を用いたSLITの効果は0-90%と様々であり、一定していない。一方、本研究でのPFASモデルマウスへの舌下免疫による口腔症状の軽減効果は、PFASに対する根治治療としてアレルゲン免疫療法が効果的である可能性を期待させる。以上より、PFAS-SLITモデルマウスの確立に関する研究が進んでおり、本研究課題の進捗状況として、おおむね順調に進展している。
PFASモデルマウスを用いてPFAS-SLITモデルマウスの確立と作用機序の解明を行う。これまでの研究で、舌下免疫に用いる試薬としてリンゴエキスを用いた場合よりも、シラカンバエキスを用いた場合の方がより、舌下免疫としての効果が得られやすいことが示唆された。研究代表者は、更に効果的な舌下免疫としての効果を得るためには、試薬としてコンポーネント (Bet v 1、Mal d 1) の使用が鍵であると考えている。つまり、シラカンバの主要コンポーネントであるrecombinant Bet v 1やリンゴの主要コンポーネントであるrecombinant Mal d 1を試薬として用いて、舌下免疫の効果を検証する。PFAS-SLITモデルマウスを確立させた後、以下の項目に着目して検証を行う。PFASに対するアレルゲン免疫療法に関わる因子を同定し、発症機序を解明する。①血清総IgE・シラカンバ特異的IgE・リンゴ特異的IgEの変化、口唇粘膜局所IgEの変化検証②頸部リンパ節、脾臓由来の活性化T細胞から産生されるTh2サイトカイン発現の変化検証③PFAS-SLITモデルマウスにおける免疫応答抑制因子(制御性T細胞、制御性B細胞、IL-10)の関与検証
(理由) 本年後の研究計画を遂行するために必要な各種機器、物品、試薬を準備した。また、成果を発表するための国内旅費が必要であった。本研究はマウスを対象とした実験が主体であり、マウスの購入や飼育のために研究費を使用した。研究を進めていく上で本年度使用額は適切な額であった。次年度研究に向けて残額を繰り越し、使用することが望ましいと考えられた。従って次年度使用額が生じた。(使用計画) 本研究はマウスを対象とした実験が主体であるため、マウスの購入、飼育費を中心に使用する。また、マウスに投与する抗原、ELISAやPCRに必要な試薬、組織染 色、細胞刺激培養液などを用いて実験を行う。研究成果は英語論文にて発表する。また、成果を日本耳鼻咽喉科学会、日本鼻科学会、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会、日本アレルギー学会、国際学会などで発表することで社会への発信を予定しており、使用を計画している。
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アレルギーの臨床
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