研究課題
病的新生血管は、構造が脆弱であり、血管透過性が高く、浮腫や出血を生じやすい。さらに、血管外滲出物の貯留は、慢性炎症と網膜下線維化を生じ、糖尿病網膜症や滲出型加齢黄斑変性などにおける重篤な視力障害の原因となる。病的新生血管の抑制のため、現在は抗VEGF製剤が用いられているが、治療抵抗性の問題などもあり、新たな治療標的が求められている。我々はこれまで、生理活性ペプチド、アドレノメデュリン(AM)とその受容体活性調節タンパクであるRAMP2が、血管恒常性維持作用を有し、病的新生血管の有力な治療標的となることを報告してきた。一方、AMと同じファミリーに属するペプチドとして新たに同定されたインターメディンは、アドレノメデュリン2(AM2)という名称でも呼ばれ、AMと類似した構造を有し、眼内にも存在している。さらにAMとAM2は、受容体システムも部分的に共有していると予想されている。しかしながら、AMとAM2の発現様式や、各々のノックアウトマウスの表現型には、異なる点も多い。本研究では、これまでの研究基盤を元に、血管の恒常性制御におけるAMとAM2の機能分化や相互作用と、そのメカニズムを解明し、眼内病的新生血管の新規治療法の開発に展開することを目的とする。初年度の研究では、加齢黄斑変性(age-related macular degeneration : AMD)の生体モデルであるレーザー誘導脈絡膜新生血管(laser-induced choroidal neovascularization : LI-CNV)での検討を行った。9-12週齢雄の野生型(WT)マウスおよびAM、RAMP2のヘテロノックアウトマウス(AM+/-, RAMP2+/-)を用いた。LI-CNVをマウス眼へ誘導し、脈絡膜展開標本を作成した。免疫染色を行い、LI-CNVや線維化の面積、マクロファージ浸潤を評価した。また、LI-CNV 誘導マウスに対して、AMの硝子体注射による影響を検討した。これらの検討により、内因性のAM-RAMP2系の加齢黄斑変性における病態生理学的意義を明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
9-12週齢雄の野生型(WT)マウスおよびAM、RAMP2のヘテロノックアウトマウス(AM+/-, RAMP2+/-)を用いた検討を行った。加齢黄斑変性(age-related macular degeneration : AMD)の生体モデルであるレーザー誘導脈絡膜新生血管(laser-induced choroidal neovascularization : LI-CNV)をマウス眼へ誘導し、7日後に眼球を摘出して脈絡膜展開標本を作成した。免疫染色を行い、LI-CNVや線維化の面積、マクロファージ浸潤を評価した。また、LI-CNV 誘導マウスに対して、AMあるいはPBSの硝子体注射による影響を検討した。AM+/-およびRAMP2+/-マウスでは、WTマウスと比較してLI-CNVは拡大し、網膜下線維化、マクロファージ浸潤の悪化を認めた。反対に、LI-CNVを誘導したマウスにAMを硝子体投与したところ、LI-CNVの縮小、網膜下線維化、マクロファージ浸潤の改善を認めた。さらにLI-CNVを誘導した脈絡膜では、TGF-β、CXCR4、CTGF、THBS1などの線維化関連因子の発現が上昇したが、AM投与により低下した。上記のとおり、内因性のAM-RAMP2系の加齢黄斑変性における病態生理学的意義を明らかとするなど、計画どおりに研究が進んでいる。
網膜下線維化においては、網膜色素上皮細胞の上皮間葉転換(EMT)が重要な役割を果たす。そこでヒト網膜色素上皮細胞(ARPE19)に対して、TGF-β+TNF-α刺激を行い、EMTを誘導する。AMおよびAM2投与の影響を、上皮系マーカー(ZO-1)や間葉系マーカー(SM22α)を指標にして検討する。次に網膜下線維化におけるTGF-β-RhoA-ROCK1-CXCR4系の関連を検討するため、各ノックアウトマウスのLI-CNVモデルに対して、TGF-β阻害剤(SB431542)、ROCK1阻害剤(Y27632) 、CXCR4阻害剤(Plerixafor)を投与し、病像への影響を検証する。
樹立した遺伝子改変マウスの数が十分に得られなかったため、年度内に予定していた一部の動物実験計画を次年度以降に実施する必要が生じたため。次年度以降は予定通り実験計画を遂行する予定である。
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