研究課題
本課題は、涙腺再生医療の臨床応用への向けた具体的課題を克服する基盤的研究である。すなわち、誘導された再生涙腺の成熟と発生の制御手法の開発、ヒト応用を前提とした移植技術の開発、涙腺再生の裾野を広げる新規細胞ソースや技術の獲得を達成する。本課題では、まず涙腺再生の裾野を広げる新規細胞ソースの獲得を目指して、マウス胎生期涙腺上皮細胞に特異的に高発現する転写因子群について再解析を行い、既報のiPS細胞由来誘導涙腺様細胞などに合わせて発現する転写因子についても検討し、涙腺上皮マーカーを安定的に発現することが可能な転写因子候補を同定した。次に、分化誘導における細胞シーズの検討を行った。当初、申請者らがこれまで取り組んできた角膜輪部上皮を用いて、三次元培養環境により作成した角膜輪部上皮由来眼上皮オルガノイドを対象に、レンチウイルスないしアデノウイルスをもちいて対象の転写因子群をオルガノイドに導入し、涙腺上皮マーカーの発現が増加するかを検討した。三次元培養下において、オルガノイドの形態変化が軽度認められ、涙腺上皮マーカーの発現変化が認められたが、一方で安定した実験系の作製には、オルガノイドに対する転写因子発現が不安定であることが考えられた。同様に、二次元にて培養したプライマリー培養角膜上皮に対して同様に転写因子を導入し、発現安定性について検討した。オルガノイドに対する転写因子導入と比較して、二次元プライマリー培養角膜上皮を用いたほうが導入効率は高いと考えられたが、上皮細胞に対する介入であることから発現効率が全体的に低いこと、また、特にヒトプライマリー培養角膜上皮の作製に関して、細胞シーズの制限やコスト面でのデメリットがあった。そこで、年度後半からは、ヒト羊膜由来間葉細胞を使用し、転写因子を見直すことで涙腺上皮マーカーの発現増加が認められることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
初年度においては、最も課題となる涙腺再生の裾野を広げる新規細胞ソースや技術の獲得に集中的に取り組んだ。技術として、まず転写因子の発現誘導による涙腺上皮細胞表現型の誘導可能性について検討した。既報の涙腺上皮発現転写因子について再検討を行い、分泌腺である涙腺の発生において貢献度が高いと考えられる転写因子群を同定できた。また、再生医療において、よりアプローチしやすい細胞シーズや、誘導効率を改善する細胞シーズの選択が重要となる。そこで、本年度は、申請者らが取得しやすく、誘導効率が高い細胞シーズの検討を行った。その結果、当初涙腺組織に分化的に近似している角膜輪部上皮オルガノイドでは、誘導効率が低く安定的な実験系の構築が困難であることが考えられた。そこで申請者は、初代培養角膜上皮細胞など数種類の培養条件を検討し、羊膜由来間葉細胞の誘導効率が高く、安定している可能性が示唆された。次年度からは、羊膜由来間葉細胞を用いて培養条件の最適化に取り組んでいく予定である。
初年度においては、最も課題となる涙腺再生の裾野を広げる新規細胞ソースや技術の獲得に取り組み、より安定的な涙腺上皮マーカーの発現を得られる分化誘導細胞シーズと転写因子群候補を同定することができた。今後は、初年度同定したマテリアルを使用し、培養条件の最適化を行う。また、誘導細胞の詳細な解析を行い、同定した転写因子の細胞分化における役割と機能を明らかとしていく。また、上記に並行して、他の課題である涙腺の成熟と発生の制御手法の開発、ヒト応用を前提とした移植技術の開発を進行する。次年度は、ヒト応用を前提とした移植技術の開発として、動物モデルを使用した涙腺の異所性移植の可能性について検討する。具体的にはマウス結膜において、成熟涙腺および胎生期涙腺が導管接続を伴って移植可能であるかを検討していく。さらに、涙腺の成熟と発生の制御手法の開発と目指して、涙腺間葉を構成する分枝形成環境について解析を行う。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
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