研究課題/領域番号 |
23K09118
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 文彦 大阪大学, 大学院歯学研究科, 講師 (60632130)
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研究分担者 |
古田 貴寛 大阪大学, 大学院歯学研究科, 教授 (60314184)
吉田 篤 大阪大学, 大学院歯学研究科, 招へい教授 (90201855)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 小脳 / 筋紡錘 / 三叉神経上核 / トゥレット症候群 / 脳深部刺激療法 |
研究実績の概要 |
我々は、咀嚼筋筋紡錘(JCMS)に生じる感覚が三叉神経上核経由で、小脳中位核背外側瘤(IntDL)と内側核背外側隆起(MedDL)(jcms-IntDLとjcms-MedDLとする)に入力することを明らかにしているので、令和5年度は、深麻酔下のラットを用い、まずjcms-IntDLとjcms-MedDLを探し出すため、ガラス管微小電極を小脳皮質表面から小脳核に刺入し、咬筋神経の電気刺激と受動的開口運動で賦活されるJCMSからの感覚入力が記録された部位をjcms-IntDLとjcms-MedDLと判断して、そこに順行性神経トレーサーであるBDAを電気泳動にて微量注入した。脳切片を作成し、橋と延髄におけるBDA標識軸索終末の分布を顕微鏡下で観察した。その結果、jcms-IntDLから出た標識軸索は、主に、同側の三叉神経上核、三叉神経間域、開口運動核(JO核)の内側の網様体、外側網様体に終止したが、上小脳脚内を上行して反対側に進んだ後、下行して反対側の巨細胞性網様体に終止するものも認められた。jcms-MedDLから出た標識軸索は、主に、鈎状束を通って反対側に向かい、反対側の三叉神経上核、JO核の内側の網様体、外側網様体と巨細胞性網様体に終止した。jcms-MedDLからは、反対側の閉口運動核(JC核)とJO核にも少し終止した。jcms-IntDLとjcms-MedDLから出た標識軸索はほとんど重複しなかった。またjcms-IntDLとjcms-MedDLから出た標識軸索は、JC核とJO核以外の脳神経運動核である顔面神経核、疑核、舌下神経運動核には終止しなかった。これらの結果は、jcms-IntDLとjcms-MedDLから橋と延髄への投射は、異なる機能を持つ可能性が示された。また、頭部の運動を支配する運動ニューロンには介在ニューロンを介して投射する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度の研究で、ガラス管微小電極を小脳皮質表面から小脳核に刺入し、閉口筋筋紡錘に生じる深部感覚(JCMS)が入力するjcms-IntDLとjcms-MedDLを探し出すことは容易ではないが、我々の前の論文(Tsutsumi, Sato et al., 2023 Cerebellum)での経験が役立ち、最終的には何とか成功することできた。しかし、ターゲットであるjcms-IntDLとjcms-MedDLが小さな亜核なので、この亜核内に限局した注入を得ることが事前の予想以上に困難であった。これを成功させるために、注入するトレーサーBDAの量を減らさざるを得なかったが、減らしすぎると小脳核から出る神経軸索を十分に標識することができなかった。結果的に、注入成功例を複数得るのに予定以上に時間がかかってしまった。更に、BDA標識された軸索線維と終末が、中脳、橋と延髄の広範囲に強く分布していたので、その分布をカメラルシダを用いて顕微鏡下で描画するのにも時間がかかってしまった。 以上の理由で、「研究の進捗は概ね順調ではあった」、と判定した。令和6年度以降は、研究分担者とより協力し、まずは令和5年度予定分を早急に完遂するとともに、以後の進捗に遅れが出ないないように努めたい。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度の研究で、咀嚼筋筋紡錘(JCMS)に生じる感覚が三叉神経上核経由で入力する小脳中位核背外側瘤(IntDL)と内側核背外側隆起(MedDL)(jcms-IntDLとjcms-MedDLとする)から橋延髄への投射の様態が明らかになった。jcms-IntDLとjcms-MedDLからの投射の橋延髄での終止部位はほとんど重複せず、特異的な投射をすることが示された。そこで令和6年度は、この特異的な投射の様態を詳細に明らかにするため、ラットを用い深麻酔下で、jcms-IntDLとjcms-MedDLからの投射の橋延髄における主な終止部位に、逆行性神経トレーサーであるCTbを封入したガラス管微小電極を刺入し、電気泳動でCTbを微量注入する。三叉神経運動核内の閉口運動核と開口運動核、三叉神経上核、三叉神経間域、開口運動核の内側の網様体、外側網様体、巨細胞性網様体への注入を考えている。動物を灌流固定後、脳を摘出して切片を作成する。CTb標識された神経細胞体を可視化して、切片を顕微鏡観察する。それによって、CTb標識神経細胞体がIntDLとMedDLに存在するか否か、標識神経細胞体がIntDLとMedDL以外の小脳核に存在するのかの解明を目指す。この解明によって、小脳核から出る小脳遠心性投射の中での、jcms-IntDLとjcms-MedDLから橋延髄への投射の特異性の詳細が明らかになる筈である。令和7年度は、明らかになった小脳核からの投射が、口腔感覚によって誘発される咀嚼反射に与える影響と、大脳皮質誘発性の咀嚼運動に与える影響を電気生理学的に解明する予定である。これらによって、運動調節に重要な筋紡錘感覚が入力する小脳核から脳幹への投射が担う運動調節神経機構の一端を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本申請研究は、令和5年度からの3年間で実施する計画である。上記のように、初年度(令和5年度)と令和6年度は、ラットを用いて、電気生理学的手法と形態学的手法を駆使して脳内に神経トレーサーを注入した後、脳の組織切片を作ってこれを観察する予定で、現在進行中である。これらは、我々がこれまで行ってきた研究を発展させるものなので、その実施のために大型の機器を新規購入する必要はなかったが、ラット脳に電極を自動で刺入する装置と、刺入した電極からニューロンの活動を記録しそれを解析する電気生理学的機器を購入する予定であった。しかし、希望していた機器に新たな機能が追加されて高額となった上に、我々の研究には使い勝手がよくない機種に変更になっていた。そこで、令和5年度に行った実験では、これまで使っていた旧式の機器を使って開始した所、何とか期待できる実験結果が得られた。一方、上記のように、令和5年度の進捗状況はやや遅れているので、遅れている分を令和6年度も継続して行い、早々に完遂させる必要が出てきた。よって、それに必要な令和6年度と令和7年度の経費予定が当初よりも高くなってしまった。
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