研究課題/領域番号 |
23K09175
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
神尾 直人 日本大学, 松戸歯学部, 講師 (10508774)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 歯髄 / 炎症 / Fraktalkine / CX3CR1 / 細胞 |
研究実績の概要 |
歯髄、そして歯を保存することが歯科保存学の確然たる意義である。臨床的には感染性露髄症例に対し、従来の抜髄処置ではなく部分断髄などが行われているが、適応が明確とはいえない。PGE2は一般的には炎症拡大に寄与するが、一方で歯髄では修復象牙質の形成に関与する点で重要である。PGE2産生に関与するだけでなくそれ自身も歯髄における硬組織形成誘導に寄与するFractalkineは歯髄における炎症と治癒を統制する可能性がある。本研究ではFraktalkine/CX3CR1シグナルの機能の詳細(炎症拡大・硬組織形成)と炎症性サイトカインやCa2+シグナルとの相互ネットワークについて検討する。 本年度はまず、Fractalkineによる硬組織形成誘導の詳細を明らかにすることとした。すなわち各種濃度のFractalkine刺激が歯髄細胞の硬組織形成作用に与える影響をAlizarin Red染色にて観察し、作用17日後、低濃度の1.0nM Fractalkineで染色性の増大を認め、5.0 nMで染色性の減少を認めた。象牙芽細胞分化マーカーとしてDSPPのタンパク質発現をウェスタンブロット法にて観察したところ、作用後7-14日で発現量の増加を認め、CX3CR1の阻害剤でその効果は抑制された。また、BMP-2、OsterixのmRNA発現量についても検討し、BMP-2は作用3時間で、Osterixha作用48時間で発現量の増大を認めた。 つぎに、LPSやIL-1によるFractalkine、CX3CR1の発現促進の詳細を検討し、蛍光細胞免疫染色で発現量の増大を認めた。また、IL-1の作用6-12時間でFractalkineタンパク質発現が増大した。さらにFractalkineの作用で時間依存的に培養上清中PGE2量が増加する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に記載した研究の1/3程度は実施され、論文の掲載に至ったため。 すなわち、Fractalkineによる硬組織形成の研究では予定されたAlizarin Red染色により刺激後14-17日で1,0 nM Fractalkineの染色性の増大、5.0 nMで染色性の減少を認めた。NestinおよびDSPPの遺伝子発現、タンパク質発現の検索を予定し、DSPP遺伝子発現、タンパク質発現の増大を認めた。また、CX3CR1の阻害剤を用いて、DSPPの発現は抑制されたことからFractalkineがCX3CR1を介して作用していることが確認できた。Nestinの確認は遅れているが、硬組織形成マーカーの一つであるOsterix遺伝子発現は時間依存的な発現を確認できた。 炎症性刺激によるCX3CR1の発現変化はまず蛍光細胞免疫染色にて確認した。IL-1刺激によりCX3CR1発現およびFractalkine発現は無刺激のものと比べシグナルが強くなることは確認できた。しかしながらWestanbrotでの結果が得られず苦慮している。炎症歯髄組織の染色ではともに炎症部位直下の歯髄細胞に陽性細胞を認めたが、蛍光多重染色ではよい結果が得られないので継続する。しかしながら上記までの結果と過去の結果をまとめ、Fractalkine's dual role in inflammation and hard tissue formation in cultured human dental pulp cells. と題してBiomedical research に投稿、掲載に至ったため、上記進捗状況と報告する。
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今後の研究の推進方策 |
炎症歯髄組織における蛍光免疫多重染色にてFractalkineおよびCX3CR1の発現とその局在の確認に苦慮しており、重点をおく。特に炎症の程度や石灰化物の形成量との関わりを検討するとともに発現のタイミングについて検索する。高濃度時の炎症の促進作用、低濃度時の硬組織形成作用についても遺伝子発現、タンパク質発現の双方のデータが揃うよう、またそれらのデータに説得力が増すように同系統の標的を複数確認し、実施していく。 その次に、細胞内カルシウムイオン([Ca2+]i)動態への関与と、他のCa2+系との相乗効果について検討する。他組織・細胞でFractalkine による[Ca2+]i の動態変化に関する報告があるが、健康歯髄細胞では認められないところに注視する。炎症性刺激によりCXCR1 発現量が増加し、絶対的な機能量が増加した場合や機能に変化が見られた場合に[Ca2+]i 変化がみられる場合はあると考えられる。CX3CR1 の増加と膜への局在を細胞蛍光免疫染色にて確認して条件を整える。また、Fractalkine/CX3CR1 にて活性化されるシグナル伝達としてはJAK-STAT、MAPK、AKT、NF-κB、Wnt/β-catenin、と種々の報告があり、クロストークも示唆されている。さらに、[Ca2+]iには影響を与えないが、その後のシグナル過程で炎症の進展作用が相乗的に促進される場合もあるため。[Ca2+]i動態とともにCOX-2発現やPGE2量も同時に測定していく予定である。[Ca2+]iの変化が得られない場合はPKC活性化剤の効果を検討する。すなわちホルボールエステルとFractalkineの相乗効果について、特に炎症性作用が促進される可能性について検索していく予定とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね使用額に達していた。研究は中途段階にあり次年度も継続して行う予定であり、無駄に端数を使い切る必要がない。 申請時には令和5年度論文投稿は予定していなかったが、一部を投稿するにあたり英文校正費用と掲載料に設備備品・消耗品費用を充てた。研究標的のうち遺伝子発現が認められていない段階のものはwesternblot用の抗体購入を先送りにした。また申請時には場所が決まっていなかった歯内療法学会は比較的行きやすい場所であったため旅費が予定より削減できた。上記理由により使用金額に差異が生じたため。
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