研究課題/領域番号 |
23K09237
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
油井 知雄 北海道医療大学, 歯学部, 助教 (80548438)
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研究分担者 |
斎藤 隆史 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (40265070)
伊藤 修一 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (50382495)
松田 康裕 北海道医療大学, 歯学部, 准教授 (50431317)
渋井 徹 北海道医療大学, 歯学部, 助教 (80453265)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | バイオミネラル / 歯髄創傷被覆剤 / キトサン添加型アルギン酸ゲル |
研究実績の概要 |
歯髄の喪失は、知覚と代謝能の喪失から脆弱化が進み、歯根破折のリスクを高まる。つまり歯髄保存を可能とする歯髄創傷治療の開発は歯の寿命を延長し、ひいては健康寿命の延伸へと繋がる。アルギン酸カリウムは天然由来のポリマーであり、ハイドロゲルの形成に適している。またキトサン(Cs)は、高分子に対する親和性から細胞成長に適している。この両者の複合化は、アルギン酸ゲル(Gel)の空隙率の減少、薬物徐放の制御、治癒過程の促進などが期待できる。我々はバイオミネラル由来の Scallop-CaCO3(S-CaCO3)を基盤とし、キトサン添加型アルギン酸ゲル(S-CaCO3/Cs-Gel)を創出した。 そこで本研究では、象牙質/歯髄複合体の潜在的な自己修復・再生能の賦活化を課題とし、キトサン添加型アルギン酸ゲル(S-CaCO3/Cs-Gel)の歯髄創傷被覆剤への応用可能性について検討した。 蛍光X線分析装置から S-CaCO3/Cs-Gel の構成元素が C,O を主体とし、K,Ca に由来する元素のピークであることが判明した。また S-CaCO3/Cs-Gel の物性評価として pH 、膨潤率、固化に要するゲル化時間およびCaイオン徐放量を測定した。S-CaCO3/Cs-Gel は、キトサン非添加群と比較して、弱アルカリ性(pH 9.5)、高い膨潤率(181.7%)、有意なゲル化時間の短縮(66s)と Ca イオンの徐放性を示した。加えて30 vol% の S-CaCO3/Cs-Gel 溶出液は、有意にヒト歯髄幹細胞の細胞生存率を亢進することが判明した。これらの結果から S-CaCO3/Cs-Gel は、ゲル化時間の短縮、膨潤率の増加、細胞親和性に加え、Ca イオンの存在から歯髄創傷被覆に有用であることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S-CaCO3/Cs-Gel の基礎性状に対する分析は、概ね順調に進行しており、歯髄創傷被覆剤の基材になりうることが期待できる。一方、歯髄創傷被覆剤から徐放し、歯髄組織の分化促進に応用する予定の低分子薬剤 lansoprazole(lpz)の歯髄幹細胞に対する機序の解明は、現在進行中である。よって今後は、歯髄組織に対する lpz の分化誘導に適する条件の見直しが必要である。なお lpz に期待されている効果の BMP/TGF-β を介した Runx2 活性化の検証実験が思わしくない結果となった場合は、他の低分子薬剤に変更することも念頭に研究を遂行していく。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、S-CaCO3/Cs-Gel の基礎性状の解析として薬物徐放性、抗菌性および細胞増殖や分化発現調整に関わるカスケードについて更なる検討を加えてゆく。これによりS-CaCO3/Cs-Gel を DDS 製剤の基本骨格としてリビジョンアップさせていく予定である。同時に DDS 製剤に内包させる生理活性物質として応用予定である低分子薬剤 の lpz に対する分化機序の解析を加えていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、本研究の2023年度計画では、歯髄幹細胞に対する低分子薬剤(lpz)の分化機序の解明を行うにあたり、遺伝子発現の解析までを行う予定であった。しかし現在、研究過程において lpz の分化促進を可能とする培養条件の模索に時間を要している。このため研究遂行に必要となる消耗品の使用頻度の増加し、次年度使用額が発生した。次年度は研究計画を再構築し、計画的な助成金の使用に努める。
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