研究課題
本院食道癌患者は全例,治療介入前より歯科紹介されている。歯科診察時に同意を得た患者に対して、食道癌の治療効果・予後や合併症発症に関連する細菌,細菌叢を同定し,キー細菌の性状を解析し,キー細菌を指標とした口腔衛生管理の意義を検討するために,まず口腔・食道の試料からF. nucleatum 分離している。口腔は舌背から、また食道は食道癌部位、および正常食道部を滅菌綿棒で擦過し、血液寒天培地に播種、生えてきたコロニーを培養後、F. nucleatum特異的プライマーを用いたPCR法にて菌種の同定を行う。F. nucleatumは様々な菌と共凝集する性質があることから、単離したコロニーがF. nucleatumとほかの菌が凝集したコロニーでないことをグラム染色後鏡見して確認した。現在までに15名の患者の口腔と食道癌組織、食道正常粘膜よりF. nucleatum を分離した。さらに分離したF. nucleatum は16SrRNA領域のシークエンスによって亜種解析を行っている。また、亜種の解析と合わせて、食道癌の術前化学療法、もしくは術前放射線化学療法前,および手術前日、手術後に採取した口腔サンプルや切除組織からDNAを抽出し,16SrRNA遺伝子を指標とした細菌叢解析を行っている。これらの細菌叢解析と、年齢,性,喫煙,飲酒,全身既往歴,血液検査など臨床因子,治療法や治療奏効率,病理学因子,転帰等の項目を調査し,口腔環境,同定した細菌,亜種や細菌叢と,癌の進行,化学療法などの治療奏効,合併症発症の有無などの治療奏効との関連を統計解析し,リスク因子を同定する解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
申請者は,F. nucleatum を亜種別に分離培養できる方法を確立した。F. nucleatumは様々な菌と共凝集する性質があることから、単離したコロニーがF. nucleatumとほかの菌が凝集している可能性が高いが、形態や色調からF. nucleatumと思われるコロニーをピックアップし、シングルコロニーとして培養、ほかの菌が凝集したコロニーでないことをグラム染色後鏡見して確認している。2023年度は口腔・食道の試料からの採取,F. nucleatum 分離,亜種解析を主な研究目的としており、複数患者から,F. nucleatum 分離,亜種解析を行っており、おおむね順調に進展している。
口腔環境と、食道がんや口腔細菌,それぞれの細菌叢や同定した細菌,亜種や細菌叢と,癌の進行,化学療法などの治療奏効,合併症発症の有無などの治療奏効との関連を統計解析し,食道がんの進行や、治療に関連するリスク因子を同定する。また、臨床分離したF. nucleatumで同定したキー細菌の生菌や加熱死菌を食道癌細胞に添加し,細胞増殖能の影響,炎症性サイトカイン,細胞への付着やがん浸潤に関連する蛋白の発現を標準株,亜種別に比較する。関連蛋白の発現に関与するシグナル伝達経路を同定する。
当初予定していた日本口腔外科学会、歯周病学会、口腔ケア学会への出張がオンライン参加となったため、旅費が節約できた。次年度は細菌叢解析の解析費用として使用し、精密なデータ取得を行っていく予定である。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
BMC Oral Health
巻: 23 ページ: 647
10.1186/s12903-023-03356-6.