研究課題/領域番号 |
23K09426
|
研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
小松 知子 神奈川歯科大学, 歯学部, 教授 (20234875)
|
研究分担者 |
李 昌一 神奈川歯科大学, 歯学部, 教授 (60220795)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | Down症候群 / 歯周病 / 酸化ストレス / 活性酸素種 / 歯肉線維芽細胞 / 電子スピン共鳴法(ESR)法 / 唾液由来抗酸化ペプチド |
研究実績の概要 |
神奈川歯科大学附属病院を受診したDown症候群(DS)患者および健常人(C)の抜歯処置に際し、研究の趣旨を十分説明し、理解、同意が得られた患者の抜去歯に付着した辺縁部の歯肉を採取した。抜歯前に抜歯予定部位の歯周組織検査を行い、歯周ポケットの深さ(PD)が3mm未満で歯肉炎指数(GI)が1以下であることを確認し、検査の詳細については記録した。抜去歯から得られた歯肉を用いて初代培養を開始し、歯肉線維芽細胞(FG)を分離した。初代培養は、10%血清添加の条件で行った。その後、8-9継代の十分な活性を有する状態のFGを用いて、培養上清中のROS産生量を電子スピン共鳴(ESR)法で測定した。以前に検証した炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)刺激によるパイロットスタディーでは,活性酸素種(ROS)産生量の検出にESR法の積算法を用いる必要があった.今回は積算法を用いず、生理学的にROS産生量を検討できるようにすることを目指し、当初の計画には記載がなかったが、多核形白血球においてROS産生を促進するPMA(Phorbol Myristate Acetate)刺激時により検討を行った。その結果、DS由来FG(DS-GF)ならびにC由来FG(C-GF)の培養上清からヒドロキシルラジカル(HO・)産生量を検出することに成功した。PMA刺激後1時間ではC-GFとDS-GFでコントロールと同程度であったが、刺激後2時間では、C-GFに比較してDS-GFで約2倍に増加した。さらに、3時間刺激後では、DS-GFではHO・産生量が低下し、一方でC-GF では増加した。PMAの作用時間によるHO・産生量の相違については、さらに検証を重ねて同様の結果が得られるか、次年度で検討を重ねるつもりである。さらに、PMA刺激濃度、作用時間などに関してもさらに予備実験を追加して検討する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本実験はDS患者より歯肉を採取して初代培養を行い、GFを分離する必要があるが、DSの組織片からのGFの分離は、Cに比較して感染リスクが高く、実験に用いるサンプルを得ることに時間を要した。 さらに、ROS検出にあたり、これまで実現できなかった新たな手法をspin-trap剤としてDMPO (5,5-dimethyl-1-pyrroline-N-oxide)を駆使し、培養細胞の調整などを模索した結果、積算法を用いずに生理学的なROS産生量をC-GFならびDS-FGから検出することに成功した。しかし、FGが産生するROSを検討する際の効果的な測定条件を設定するために、まず、PMA刺激による適当な刺激時間と濃度の検討を行う必要があり、その濃度および作用時間などの検討に時間を要した。 そのため、当初の計画にある炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α, TGF-β)刺激した細胞から回収した培養上清中のDMPOを用いたスーパーオキシド(O2・-) や spin-trap剤である4-OH-TEMP(2,2,6,6-tetramethylpiperidinol) を用いた 一重項酸素の検出を行う実験にまで至らなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画の通り進められるよう引き続き、採取した歯肉組織片からGFを分離して、実験に使用するサンプル数を増やしていく。現在、PMAだけではなく種々の濃度のTNF-α、IL-1βを添加した細胞から回収した培養上清中のROSをESR法により検出することを開始している。この検討によりFGにおいて、炎症によるROSの発現の相違を検証する。これらの結果から炎症性サイトカインであるPMAとTNF-αやIL-1β刺激濃度、作用時間を選定して、生体内のROS産生系に作用するROSのスカベンジャー(SOD、カタラーゼ、DMSO)、唾液抗酸化ペプチドであるヒスタチン5、PRP-1、ラクトフェリン)、抗酸化物質(チオレドキシン、コエンザイムQ10、レスベラトロール、カカオ抽出物、ビタミンC(対照1)茶カテキン(対照2))を添加し、DS-GFとC-GFでの抗酸化活性の相違を検証する。まずは、充分な細胞活性を有した条件で収集した培養上清において、DMPOをspin-trap剤としてO2・-と HO・の検出をESR法で行う.その後, 一重項酸素においても、TEMP、4-OH-TEMPをspin-trap剤として用いて、ESR法でROS発現量の相違を検討する。 ESR法により抗酸化能(ROS消去能)を検討することで、ROS特異性を確実なものし、性格づけを行う。以上の実験計画を完遂し、最終的には、歯周病の病因論としてのROSの資質を評価し、酸化ストレスによる歯周病病態メカニズムを解明する。さらに、ROSスカベンジャー、唾液由来抗酸化ペプチド、抗酸化物質による歯周病予防の臨床的基盤を構築する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度は実験に用いるサンプル(歯肉由来線維芽細胞の分離)を得ることに時間を要したため、研究の進捗状況はやや遅れている状態である。そのため、本年度、使用する予定であったspin-trap剤、炎症性サイトカイン、抗酸化物質などの消耗品による支出は少なかった。 (使用計画)当初の計画に基づき、次年度も継続的に取り組む必要がある。今後さらに試薬など継続的な購入が必要となるため、計画的な使用が必要である。さらに症例数を増やし検討する予定であり、それに必要とする試薬などの物品の購入を予定している。サンプル数の増加に伴い、サンプル処理、測定を迅速に行うため、技術者の雇用を検討中である。
|