研究実績の概要 |
近年、咬合不調和が全身の健康に及ぼす影響についての研究報告が増加している。咬合不調和は持続的な口腔顔面痛を引き起こす要因であり(J Oral Rehabil, 49, 2022)、また、健常な若年成人においても咬合不調和が心理的ストレスとして生活の質を低下させる可能性が臨床で指摘されている(Eur J Orthod , 33, 2011)。動物実験においても、咬合不調和が交感神経系亢進やストレスホルモン分泌を誘発すること、骨粗しょう症やうつ病などの誘因となること等が示されている(J Dent Res, 80, 2001; Sci Rep, 8, 2018; Brain Sci, 12, 2022)。これらは咬合不調和が慢性的ストレスを介して全身に影響を与える可能性を強く示唆するが、その全体像や各臓器での作用メカニズムは依然として不明な点が多い。本研究では、咬合不調和に対する心臓のストレス応答における、βアドレナリンシグナルの因子Epac1(Exchange protein directly activated by cAMP 1)の役割を分子機構レベルで明らかにしていく。 野生型マウスならびにEpac1KOマウスそれぞれに咬合挙上(bite opening: BO)処理を行って咬合不調和を誘導し、BO処理2日後の急性期おける心機能を心エコー検査で測定した。BO処理前と比較したBO処理2日後の心機能の変化率において、Epac1KOマウスは野生型よりも有意に低値を示した。また、BO処理2日後の野生型、Epac1KOマウスそれぞれについて、イソプロテレノール(isoproterenol: ISO)静脈投与に対する心機能の応答性を解析した。その結果、Epac1KOマウスの心機能のISO応答性は、野生型マウスよりも有意に低いことが明らかとなった。
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