研究課題
敗血症とは単純な感染では無く、感染と臓器障害の症候群である。また、ICUに入院する最も多い原因の一つで、致死的疾患でもある。その予後向上を目指し、国内外で様々な研究が行われてきた。本研究者も同様に、敗血症の構成因子を背景疾患、感染臓器、障害臓器、原因菌、治療に分けてその課題に挑んできた一人である。米国・欧州集中治療学会はそれらの個々のエビデンスを集め、敗血症ガイドラインを4年ごとに改定してきた。しかし、敗血症の死亡率はある程度改善したところで頭打ちしている。その原因として本研究者は予後が正確に評価できていない限界点を考えている。これまでの日本の敗血症研究では急性期病院の退院時転帰しか判定できていないことを問題視している。そのため、今回の研究の目的の一つは敗血症の予後を長期に正確に評価することである。また、日本の急性期医療は生命予後のみを延長させることに注力してきた。しかし、生命延長だけで良いのだろうか。転院先や施設ではどのような予後を辿るのであろうか。また、健康寿命はどうであろうか。申請者は高齢化社会の最前線にいる日本がやらなければならない課題だと考えている。つまり、二つ目の目的は生死より重要とも考えられる敗血症後の健康寿命に影響を与える因子を探索することである。健康寿命の評価方法は1年の単位で長期に経過を追い、フレイルや日常生活動作の経時的変化などを用いる予定である。2023年度は敗血症の長期予後を評価するデータバンクの準備を行なった。そのため、2024年度からデータの収集を開始する出来る予定である。また、予備解析、先行研究として、DPCデータなどを用いて、日本全国の敗血症の特徴や抗菌薬の使われ方の特徴を報告することが出来た。
2: おおむね順調に進展している
DPCなどの既存のデータを用いた予備解析、先行研究は順調に進み、論文化することができている。敗血症データバンクも国内の共同研究者などと議論を進め、取得項目の決定、方法、Electronic Data Captureシステムの選定など、予定通りの準備が進んでいる。倫理審査もほとんど終了した。一方で、多くの施設の参加を見込んでいることから、調整に時間を要し、データ取得開始予定が2024年4月から6月へとわずかに遅れを生じている。
既存のデータベースを使った予備解析、先行研究は順調に進み、論文化出来ている。特に近年問題となっている耐性菌についての研究は引き続き、順調に進行しており、今年度はその結果を欧州集中治療学会で発表した後、論文発表に繋げる予定である。並行して、敗血症データバンクのデータ取得に努める。敗血症データバンクでは、生死だけでなく、健康寿命を評価できるアウトカム変数を長期に取得し、下記課題を解決する予定である。敗血症の構成因子(背景疾患、感染臓器、障害 臓器、原因菌)と予後の違い、それらにより層化した患者群での治療の有効性、治療を用いる方法(バンドル)の遵守率・適正化による予後の違い、それらの違いを考慮した予測モデルである。 研究のデザインは多施設共同研究のデータによる探索型研究である。成人敗血症患者を対象に上記研究課題を探索的に解析する。Primary OutcomesはClinical Frailty Scaleの経時的変化である。Secondary Outcomesは院内、28日、6ヶ月、1年、ICU free days、Ventilator free days、退院先などである。取得情報は患者基本情報、背景、バイタルサイン、感染源、原因菌、障害臓器、SOFAスコア算出に必要な検査結果、治療、予後(Clinical Frailty Scaleの経時的変化、院内、28日、6ヶ月、1年死亡率、退院先など)等である。カテゴリー変数は数と比率で記述する。連続変数は平均と標準偏差、もしくは中間値と四分位範囲で記述し、適切な検定を行う。次に予後との関連が臨床的に考えられるもの、重症度との関連が予測されるものを変数として用い、独立関連性の評価のため、 多変量解析を行う。予測モデルに関しては、データを分割し、derivationとvalidationを行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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