研究課題/領域番号 |
23K09644
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
和泉 宏謙 富山大学, 医学部, 技術専門職員 (00377342)
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研究分担者 |
吉田 知之 富山大学, 学術研究部医学系, 准教授 (90372367)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 農薬曝露 / シナプス調節 / グルホシネート / 発達神経毒性 / 神経発達障害 |
研究実績の概要 |
農薬曝露が高次脳機能障害を伴う神経発達障害の発症に寄与している可能性が指摘されている。本研究では、除草剤の一つであるグルホシネートの曝露によってシナプス調節機能の破綻に至る分子プロセスを明らかにし、そこから病態機序に立脚した治療法の開発を目指す。令和5年度は以下の内容の研究を実施し、成果を得た。
(1)グルホシネート曝露による発達期シナプス病態の解析 我々は、妊娠母体を介してグルホシネート曝露を受けたマウス胎児由来の培養神経細胞がシナプス誘導能の障害を示すことを明らかにしてきた。本年度はまず、この障害を導く作用点についての解析を実施し、①このシナプス誘導能の障害の程度は母体毎で異なる、②無処置の培養神経細胞にグルホシネートを直接作用させてもこのシナプス誘導能の障害は生じないという結果を得た。これらを踏まえ、妊娠期のグルホシネート曝露による母体環境の変化が胎児に対して間接的に作用し、シナプス誘導能の障害が生じると結論付けた。続いて、この障害に至る分子プロセスを理解するために、妊娠母体を介してグルホシネート曝露を受けたマウス胎児由来の培養神経細胞について、シナプス誘導時のトランスクリプトームを実施し、この培養神経細胞の遺伝子発現プロファイリングを進めた。さらに発現変動を示した遺伝子群の解析を通して、妊娠期のグルホシネート曝露によって胎児の神経発達遅延が生じる可能性を見出した。 (2)ゲノム編集を利用した発達障害モデルマウスの作製 本研究の前進である若手研究(平成31年度~令和3年度)から進めている「遺伝的な要因による発達障害モデルマウスの作製」について、シナプス形成に関連するPTPRD遺伝子の新たな変異導入マウスを作製した。また、遺伝的な要因によって老化が加速するモデルマウスに対して、アルツハイマー病との関連性が示唆されるSerpina3n遺伝子多型を正常型へ置換したマウスを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、グルホシネート曝露による発達期シナプス病態に関連する遺伝子群の抽出、ならびにゲノム編集を利用した発達障害モデルマウスの作製を実施予定であった。グルホシネート曝露による発達期シナプス病態との関連性が考えられる遺伝子群の抽出については、培養神経細胞の経時的なトランスクリプトームを実施し、シナプス後部の細胞接着分子に対するシナプス前終末の形成時において発現変動を示す遺伝子群を抽出後、そこからグルホシネート曝露によって本来の発現変動から逸脱する遺伝子群を特定した。一方、発達障害モデルマウスの作製については、令和4年度の動物実験施設改修工事における不備ならびに令和6年1月に発生した地震の影響で、マイクロインジェクションを用いたマウス作製が困難となったため、本年度はその再セットアップに時間を要した。エレクトロポレーションによるゲノム編集法にて、PTPRD遺伝子の変異導入マウスをはじめ、複数の新たなマウス系統を作製した。またゲノム編集による病態治療法の開発の一環として、Serpina3n遺伝子多型を正常型に置換したマウス系統を作製した。 以上の結果から、現在までの研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は下記の実験を推進する予定である。 (1)シナプス誘導能の障害に至る病態パスウェイの解析 グルホシネート曝露を受けたマウス胎児由来の培養神経細胞のトランスクリプトーム解析から抽出した遺伝子群について、ゲノム編集を利用した遺伝子操作を行った場合のシナプス調節機能ならびに遺伝子発現プロファイルの比較・解析を実施し、シナプス誘導能の障害に至る分子プロセスを明らかにしていく予定である。また、グルホシネート曝露によるシナプス誘導能の障害に至る分子プロセスを個体レベルで検証するために、これまでに樹立しているレポーターマウスに対して、上述のトランスクリプトーム解析から抽出した遺伝子群の遺伝子操作を施したマウスを作製する予定である。 (2)ゲノム編集を利用した発達障害モデルマウスの作製・解析 本年度に作製したマウス系統の表現型の解析を行う予定である。また、マイクロインジェクションによるマウス作製を実施する実験環境の再セットアップが完了したので、本年度に作製したマウス系統に対してさらなる遺伝子操作を加えていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は動物実験施設における実験環境の再セットアップに加え、論文執筆に注力したことから、当初計画していた実験の一部を次年度に持ち越したため次年度使用額が生じた。この分については、次年度計画にて使用予定である。 また、本研究計画を進めるに際して、共同利用施設(動物実験施設、遺伝子実験施設、分子・構造解析施設)を利用した。2023年12月から2024年3月までの4ヶ月分の共同利用施設の利用料金について、その一部の請求が2024年4月になるため次年度使用とした。
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