我が国におけるがん総死亡者数は、高齢化とともに今後ますます増加すると考えられる。がん罹患率及び死亡率減少のためには、早期診断及び治療法の開発に加え、予防法の確立が益々重要となる。 本研究では、独自に樹立した大腸正常粘膜および良性腫瘍由来の細胞を用いて、3次元で培養した際の形態の違いを指標とすることで、大腸がんの悪性化に関わる因子の探索を行う。それにより、がん予防に重要な新たなターゲットを見出すとともに、がん予防法の確立に繋がる基盤的知見を提供することを目指している。 これまでに、ApcMin/+マウスの大腸腺腫由来細胞で、単層型および重層型のオルガノイド形態を示す細胞をクローニングしており、RNAseqによりそれぞれ正常とがんに近い性質であることを明らかにした。さらにパスウェイ解析の結果から特定の経路の関与が示唆されたが、western blottingによる比較においては通常培養条件下における大きな変化は認められなかった。 一方で、クローニング後の細胞は、継代を経ても単層型もしくは重層型の性質を維持し続けることを確認した。そしてこの単層型および重層型の細胞株を用いて、約2000種類の阻害剤でスクリーニングを行い、構造の変化について検討を行った。1細胞からオルガノイド構造が形成される7日の間に阻害剤を添加しておくと、重層型から単層型もしくは単層型から重層型に性質を変化させるいくつかの阻害剤を見出した。このことから、それぞれの細胞の性質は双方向に可逆的であり、本実験系はその性質の変化をオルガノイド形態として検出できる系であることが明らかとなった。
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