研究課題/領域番号 |
23K09678
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
沖津 祥子 日本大学, 医学部, 客員研究員 (10082215)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 小児 / 急性胃腸炎 / ウイルス / COVID-19 / 流行疫学 / 遺伝子検索 |
研究実績の概要 |
小児科外来を急性胃腸炎のため受診した小児から下痢便検体を得て、検体中のウイルスを検出し、さらにその遺伝型を調べることで急性胃腸炎ウイルスの流行を解析した。2020年初頭に始まったCOVID-19のパンデミックが感染症の流行に影響を与えたことが報告されている。この研究では群馬県の一小児科クリニックの協力を得て、ここを訪れた小児の流行解析を行った。このクリニックから2014年以降検体を提供されており、パンデミック以前の流行状況と、以降との比較が可能である。この研究では毎年7月から翌年の6月を1年とする。日本では2011年から最も重症の胃腸炎を起こすロタウイルスのワクチンの任意接種が開始され、2020年10月に定期接種化され、この影響も考慮した。 多様なウイルスが急性胃腸炎の原因となるが、頻度の高いロタウイルス、ノロウイルスI群およびII群、アデノウイルス、アストロウイルス、サポウイルスの検出および解析を行った。 2022-2023年までの検体に関して、ウイルスの検出と流行株の解析を終了した。その結果、2019-2020年には検体数が減少し、2020-2021年ではさらに減少したが、これはCOVID-19に対する感染予防対策のためと考えられた。2021-2022年になると検体数は上昇した。ロタウイルスの検出率は2014から2019年の5年間には12~45%あったが、2019-2020には未検出、その後も1~2%とほとんど検出されなかった。この研究でのロタウイルスワクチン接種率は2021-2022年の75%が最も高く、2021年の厚生労働省発表の全国的な調査である95.3%より低率であるが、ワクチン接種が有効であったと考えられる。研究期間を通して最も検出率が高かったのはノロウイルスII群であった。アデノウイルス、アストロウイルス、サポウイルスには年によって推移が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年末までに収集された検体のスクリーニングが終了し、詳細な解析を行う準備が整っている。 2022-2023年末までの結果から、COVID-19以前から最頻出ウイルスであったノロウイルスII群が、特に2020-2021年では全検体の65%から検出された。その後の2年では30%前後であったが、やはり最頻出であった。サポウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスはCOVID-19以前では2~9%前後であったが、2022-2023年ではサポウイルスが10%、アデノウイルスが27%となった。以下それぞれのウイルスの流行の変遷について解析しており、以下に示す。 サポウイルスは世界でも最頻出のGI.1株の検出がこの地域でも主流であるが、それ以外の株の検出も見られ、多様な株が検出される。この状況は繰り返し感染する患者で調べると異なる遺伝型に感染することから、患者の免疫と関連していると思われる。今後も患者の再感染とその遺伝型を調べていく予定である。アデノウイルスは2014-2023年までの検出状況およびその遺伝子およびアミノ酸配列解析の結果について現在投稿中である。アストロウイルスは2021-2022年には14%検出された。アストロウイルスは以前から知られているclassic アストロウイルスとは遺伝的に遠いMLBおよびVAアストロウイルスがあることが知られるようになり、これらを加えたこの地域での疫学の結果をすでに発表した(Microbiol Spectrum 2023)ので、この後はこの結果からの推移を調べる予定である。10年間にわたり同じ地域から検出されたノロウイルスII群のGII.P31/GII.4_Sydney_2012株の検出結果を発表した(Ushijima et al., 2024)。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は2024年の前半(1~6月)および2025年の3月までの検体が到着予定である。これらのスクリーニングを行い、ウイルスの検出および流行型の解析を行う。 検出された各ウイルスについて遺伝型を調べ、遺伝子変異、アミノ酸変異を調べる。これまでの流行型と比較して、新しい流行型が見つかった場合は、その流行ウイルスを詳細に調べるため、抗原性をもつウイルス粒子外殻タンパクの遺伝子配列の解析や場合によってはウイルス全長の配列決定を行う。 サポウイルス、アストロウイルスは1本鎖RNAウイルスであるため、カプシド(VP1)とポリメラーゼ領域の遺伝子配列の間での組換え変異型が出現し、流行する可能性がある。そこでサポウイルスではVP1(カプシド)領域とポリメラーゼ領域、必要に応じてポリメラーゼ領域を含むNS6、NS7領域全長の解析を行う。アストロウイルスではORF1a、ORF1b、ORF2領域間での組換え体の存在が知られており、それぞれの領域の解析を行う。アデノウイルスは2本鎖DNA ウイルスでウイルス表面のヘキソン遺伝子の解析を行うとともに、必要に応じて他の表面抗原であるペントン、ファイバーの解析を行い、組換え体がないか調べる。ロタウイルスに関しては、2020年以降検出数は減少しているものの、年に1、2件検出されており、今後、海外から現行のワクチンで予防できない型が流入することがないか、見守る必要がある。一方、ロタウイルスワクチンは生ワクチンであるため、ワクチン株がワクチン接種者から検出されることがある。そこでロタウイルスの検出や遺伝型の決定も継続する必要がある。11本遺伝子鎖をもつ2本鎖RNAウイルスであるロタウイルスではVP7、VP4、VP6の解析を行うが、新しい遺伝子集合体株が出現し流行する可能性があり、この場合はさらに他の遺伝子分節の解析が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、アデノウイルスの流行疫学に関してこれまで判明した結果に関して論文を作成し、投稿中である。このため掲載料(open accessのため、article processing charge)が必要であり、投稿日が年度末にかかったため、それを令和6年度の使用とした。令和6年度はその他にウイルス核酸の抽出用キットやウイルス遺伝子の増幅用試薬、業務委託によるウイルスの遺伝子配列の決定、および学術集会参加のための旅費・交通費などに多く使用する予定で、論文投稿料も引き続き必要である。また、必要に応じて、Next Generation Sequencingによるウイルス全長の遺伝子配列解析を外部に委託する。
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