研究課題/領域番号 |
23K09764
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
尾関 宗孝 京都大学, 医学研究科, 特定講師 (80549618)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 肝臓 / 核局在 / 胆汁鬱滞 / 転写制御 / リトコール酸 |
研究実績の概要 |
本研究では転写因子SRFの補因子として知られるMRTFAおよびMRTFBについて、肝胆汁鬱滞下において肝細胞毒性を示すことが知られている胆汁酸であるリトコール酸に応答し、アクチン結合タンパク質の一つであるビリンの転写制御にSRF非依存的に関わる機構があると仮説を立て、MRTFの新たな生化学的機能について明らかにすることを目的とし、以下の3つのアプローチで検討した。 1. MRTFのSRF非依存的遺伝子転写制御および細胞機能調節に関するメカニズムの解明。 2. MRTFBのリトコール酸刺激に応答した核局在のメカニズムの検討。 3. 新たな肝臓研究モデルとしてのヒト肝癌手術検体からのオルガノイド作製とその有用性の検証。 SRF、MRTFA、MRTFBを標的としたsiRNAオリゴ各2種を調達し、トランジェントトランスフェクションによる各遺伝子ノックダウン条件の最適化を行った。しかしながら、RNA-Seq解析に十分な量のRNAを得るに至っていない。MRTFBアミノ酸配列について核局在シグナル配列の探索をおこない、計3か所についてコンセンサス配列と類似していた。また、HaloTagが付加された全長MRTFB発現ベクターを増幅し、トランスフェクション用に調製した。肝癌患者より摘出された肝癌組織片よりオルガノイドを調製した。これらのうち5例についてマウス皮下に移植し異種移植片の作成を試みたが、マウスへの生着は認められなかった。作成したオルガノイドは液体窒素中で保存した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究実施目標は以下のとおりである。1. MRTFA/BノックダウンHepG2細胞のRNA-Seq解析による遺伝子発現プロファイルの取得。2. MRTFB発現ベクターの調製と変異体作成のための核局在ドメインの推測。3. ヒト初代培養肝癌オルガノイド作成条件検討 以下に各実施目標について進捗状況を記す。 SRF、MRTFA、MRTFB、それぞれについて、市販のsiRNAオリゴライブラリーより2つづつsiRNAを選択し、RNAiMaxを用いてトランジェントトランスフェクションによるノックダウンを試みた。それぞれのmRNA発現量低下について一定の効果が確認できたことから、最適条件を検討した。現在はRNA-Seq解析に必要なRNA量を確保するため、培養規模の拡大を行っている段階である。 HaloTagが付加されたMRTFB全長発現ベクターをかずさDNAのライブラリーより入手して大腸菌を用いて増幅し、トランスフェクション用に精製した。PSPORTIIを用いて配列解析を行い、核局在シグナルの探索を行ったところ、7塩基からなる単節型核局在シグナル配列2カ所、双節型核局在シグナル配列1ヵ所が推定された。 京都大学医学部附属病院にて肝癌患者より摘出された肝癌組織片(計23例)から改変CTOS法により肝癌オルガノイドを作成し、液体窒素にて凍結保存した。5つの症例についてはマウス皮下に移植し異種移植片の作成を試みたが、マウス生着には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
siRNAによるSRF、MRTFAおよびMRTFBをノックダウンしたHepG2細胞よりRNA-Seqに必要なRNA量を確保する。RNA-Seq解析により遺伝子発現定量データを取得し、MRTFAおよびMRTFBの下流に存在しSRF非依存的に転写制御や細胞機能調節に関わる遺伝子の選定することとともに、定量RT-PCRにより遺伝子発現量の変化を確認する。さらに、GO解析によりMRTFにより引き起こされるSRF非依存的シグナル経路の推測を行う。 MRTFBアミノ酸配列解析から核局在シグナル配列を探索し、計3か所が候補配列として挙げられた。これらの欠損または改変したMRTFB発現ベクターを構築し、核局在にどのように寄与しているか検討するとともに、リトコール酸に対する応答について調べることとする。核局在シグナル配列に改変を有するMRTFB変異体をHepG2内で発現し、HaloTagを用いた蛍光検出によりMRTFBの細胞内局在を観察する。さらに、細胞をリトコール酸で刺激した場合にMRTFB変異体の核内への移行が起こるかどうか検討する。 これまでにヒト肝癌摘出片から肝癌オルガノイドを調製し、23例について凍結保存した。次年度においても継続してオルガノイド作成を行うが、同時に得られたオルガノイドを培養し、リトコール酸への応答について検討する。特に、これまでHepG2細胞で観察された濃度依存的な細胞毒性について、肝癌オルガノイドに対して毒性を示す濃度の差異について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
肝癌オルガノイド作成のための手術検体収集スケジュールが患者手術時間に依存することから、想定外の待機時間によりオルガノイド作成のために長時間を割くことを強いられ、そのことを発端として全体の作業の流れに乱れが生じ、当初計画より遅れることとなった。中でもRNA-Seq解析に必要なサンプル調製が年度内に間に合わず、実験実施のための物品費を含む解析外注のため確保していた予算計50万円ほどを未使用のまま次年度へ繰り越すこととなった。次年度は検体収集スキームを見直すことで必要な実験時間を確保し、スムーズに研究を遂行できるよう配慮した。従って次年度はRNA-Seq解析を行うことで繰り越し分の予算を消化するとともに、当初予定の予算執行は計画通りとなる。
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