研究課題
筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の終末期の実態はほとんど明らかになっておらず、看護支援のあり方は未確立である。本研究では、ALS患者の病初期から最終末期に至るまで、専門性の高い看護ケアを継続して提供できるように、ALS患者の終末期の実態の全容を把握し、看護支援内容および支援課題について明らかにすることを目的とした。2023年度は、以下の成果をあげた。1.対象施設に受療歴のあるALS患者の医療処置とオピオイドの使用状況について後方視的に全容を把握した。2010年以降に診断を受けた399例を解析対象として呼吸療法の選択とオピオイドの使用有無との関係について分析中である(投稿準備中)。2.高用量モルヒネを要するALS患者の増量速度、背景因子の解析から、ALS患者の苦痛緩和における課題を明らかにした。最終転帰が判明しているALS患者のうち100 mg/日以上のモルヒネ製剤を要した17例を対象とし、使用量と推移、背景因子、苦痛症状を後方視的に検討した。苦痛症状の評価として、ALS苦痛緩和スケール(清水ら、2021)を用いた。早期に高用量のモルヒネを要した群(4例)では、増量時点での苦痛として口渇が最も強く、呼吸困難感や思いの伝わらなさが続いた。高用量のモルヒネを要した群の全例でモルヒネ開始前から非侵襲的人工呼吸(NIV)を導入し、うち2例は経過中に意識レベル低下や一過性の低酸素血症によりモルヒネ製剤を減量していた。症状に応じた対応により緩和ケアの質を向上させる可能性を確認した。3.NIVを開始し在宅療養を行っている18例のALS患者を対象として、ALS苦痛緩和スケールを用いて、NIV開始から6か月間の自覚的呼吸苦の変化と、関連する苦痛症状および臨床症状の検討を行った。ALSの経過において自覚的呼吸苦の変化は、他の自覚症状の変化と関連している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、ALS患者の終末期の実態の全容をとらえ、看護支援内容および課題について明らかにすることである。2023年度は、本研究課題の基礎となるALSデータベースを概ね完成することができ、解析を進めることができたため、計画全体の初年度としては順調と判断した。
2024年度は、より詳細なALS患者の最終末期の症状と看護ケアの内容の調査を行う予定である。病院死亡例について、最終末期の医療処置の状況、オピオイドの使用状況、ALS患者の身体的・精神的な症状と看護ケアの内容をカルテにより後方視的に調査する。また、緩和ケアチームを場として、参加観察調査を行い、具体的な支援内容から、ALS患者における終末期の課題を整理する。
参加観察法によるデータ収集のため、タブレットを2023年度に購入し、次年度使用額が生じた。2023年度購入予定であった解析用のパソコンは2024年度の購入に充てる。2023年度はほぼ予定通りの使用額であった。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
日本難病医療ネットワーク学会機関誌
巻: 10(2) ページ: 63‐68
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