研究課題/領域番号 |
23K10215
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
富田 隆 国際医療福祉大学, 国際医療福祉大学三田病院, 教授 (00775950)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 高齢者 / 一包化調剤 / フレイル / 嚥下障害 / とろみ調整食品 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、高齢者に対する生活習慣病薬の処方日数が長期化している。そのため、処方日数の長期化に伴い、一包化調剤薬が吸湿する可能性が高くなっているのが現状である。そこで、本研究では、まず、一包化調剤薬の吸湿予防法を検討する。 高齢患者が内用薬を服用する場合、低栄養を改善するために、経口栄養補助食品で服薬するMedication-Pass Nutrition Supplement Program(Med-Pass)が検討されている。また、嚥下障害を発症した高齢者が内用薬を服用する場合、嚥下補助製品として、とろみ調整食品が汎用されている。この現状を踏まえ、本研究では、栄養機能食品のプロテインや中鎖脂肪油を使用したMCTパウダー等の栄養素を添加したとろみ調整食品で内用薬を服用する方法、すなわち、服薬と同時に高齢者の抗フレイル効果が期待できる新たな服薬方法を検討する。さらに、高齢者が服薬時に使用できる新しいとろみ調整食品の開発に取り組む予定である。 本研究の目的は、高齢者における薬物治療成績の向上である。本研究で確立した服薬法については、介護現場、医療現場にフィードバックし、高齢者における薬物治療成績の向上を実現させる。また、高齢者が服薬時に使用可能なとろみ調整食品が開発できた場合、製品化を目指す。さらに、本研究では、医療用医薬品に加え、高齢者が薬局で購入する頻度が高い一般用医薬品、高齢者が購入する頻度が高いサプリメントを対象とした内服方法についても検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
医薬品の錠剤には、有効成分の他に、使用目的に応じて様々な賦形剤が配合されている。従って、錠剤の内部構造を解明することは、医療従事者が錠剤の物理的特性を理解し、患者に対して錠剤を安全に投与する上で極めて重要である。しかし、錠剤の詳細な内部構造を解析するための方法は確立されていなかった。また、X線CT解析(X線コンピュータ断層撮影)は、非侵襲的に構造物の内部構造を解析するために有用な方法であるにも関わらず、錠剤内部の構造解析に応用されていなかった。 酸化マグネシウム(MgO)錠は、制酸・緩下作用が広く認められており、便秘に悩む患者のQOLを著しく改善する。MgO錠は特に吸湿性が高く、湿度の影響を受けると硬度と重量が増加する。そのため、湿度による崩壊障害は、嚥下機能の低下した患者にとって問題となる可能性がある。そこで、申請者は加湿したMgO錠の内部構造を経時的に非破壊で観察する目的でX線CT解析の有効性を評価した。 MgO錠を40℃、湿度75%の条件下に7日間静置し、その後、90日間室温で保存した。また、加湿前後のMgO錠の重量を測定し、MgO錠の内部構造をX線CT解析で観察した。MgO錠の重量は、吸湿に伴って大幅に増加したが、室温での保存による変化は認められなかった。X線CT解析による錠剤内部の歪度は吸湿直後から減少し、室温保存後もほとんど変わらず、保存期間中に加湿前のレベルに戻ることはなかった。 本研究の結果は、X線CT解析の有用性を強調するものであり、MgO 錠の内部構造変化を非破壊的、3次元的かつ詳細に評価するための有効なツールであることを示唆するものである。また、放射光のような高輝度X線源を用いることで、迅速な錠剤内部の構造変化の測定と正確な経時変化の把握が可能となった。本研究の成果は、医薬品の製剤化、品質管理、および患者の安全性に広く影響を与えるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染拡大による処方日数の長期化に伴い、一包化調剤薬が吸湿する可能性が高くなっているが、現状では、一包化調剤薬の吸湿対策は十分とは言い難い。特に、高齢者に処方される頻度が高い口腔内崩壊錠が吸湿した場合、崩壊時間が遅延し、未崩壊の錠剤が口腔内に残ってしまうため、服薬コンプライアンスが低下する可能性が高い。そこで、本研究では、高齢者における服薬コンプライアンスの低下を予防するために一包化調剤薬の吸湿予防法を検討する。 千葉県薬剤師会会員を対象としたアンケート調査によって、臨床現場・介護現場で22銘柄の内用薬の吸湿が問題となった事実を明らかにした。そこで、本研究では、これらの22銘柄の内用薬を対象として、申請者が開発した一包化調剤薬の保存袋の吸湿予防効果を検証し、有用性を評価する。 近年、高齢者の服薬において、経口栄養補助食品で内用薬を服用するMed-Passが検討されている。Med-Passの場合、内用薬を服用するタイミングで経口栄養補助食品が摂取できるため、フレイル予防に結び付くことが明らかにされている。そこで、本研究では、申請者が確立したとろみ調整食品による服薬方法を発展させ、栄養機能食品や栄養素を添加したとろみ調整食品を用いた服薬法、すなわち、高齢者のフレイル予防に貢献できる新たな服薬方法を検討する。栄養機能食品のプロテインやMCTパウダー等を添加したとろみ調整食品に医療用医薬品、一般用医薬品、サプリメントを浸漬させた後、崩壊時間、溶出率を測定する。また、栄養素を添加したとろみ調整食品が医療用医薬品、一般用医薬品、サプリメントの崩壊時間や溶出率に及ぼす影響が小さかった場合、ラットを対象とした動物験(ファモチジンの経口投与実験)を行い、血中薬物濃度への影響、抗フレイル効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
執筆中の投稿論文(2報分)の英文校正費用・投稿費用として使用する。
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