研究課題/領域番号 |
23K10366
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
荻ノ沢 泰司 産業医科大学, 医学部, 准教授 (20596720)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 心疾患 / 両立支援 / 就労 / 職場復帰 / 電子患者アウトカムシステム / ePRO |
研究実績の概要 |
本年度は心疾患患者の両立支援に関するePROシステムを構成するのに必要な情報基盤を整備するため、次の①から③の研究を行った。即ち、【①文献レビュー(国内外論文・ガイドライン・ステートメント)】 心疾患患者の復職・両立支援に関する論文は英文158報、邦文160報、ガイドライン6報であった。心疾患は、安全配慮の観点から職業の遂行がガイドラインにおいて制限される事項がある事(植え込み型除細動器の職業運転や低左心機能患者の身体負荷を伴う作業など)、短期的な休職や離職を強いられる場合でも長期的には職場復帰可能となる例も多く、必ずしも全ての症例において介入を必要とするわけではないこと、職場復帰を阻害する様々な要因(うっ血性心不全、下位の職位、上司の反応など)、心臓リハビリテーションの効果・多職種介入の有効性などが示されていた。【②主要施設インタビューによる支援プロセスの現状調査】国内で開催された学会において、心疾患患者の治療と仕事の両立支援を施行している複数の病院スタッフ(医師・看護師・ソーシャルワーカー)・企業の人事および産業保健担当者・患者会のメンバーなど、両立支援に関わる関係者から、具体的な両立支援プロセスの現状や課題を調査した。心疾患患者の両立支援の必要性は認識しているものの、要支援者スクリーニングから介入までシステマティックに行っている施設は極めて限られていた。【③当院の両立支援対象者の後方視的レビューによるプロセス・アウトカム評価】心疾患患者においてはがんや難病など、他の両立支援指導料対象疾患と比較して、クリニカルパスの対象となるような予定入院患者においては両立支援を希望する患者は少なく、むしろ心不全の急性増悪など、救急経由で緊急入院した患者の支援ニーズが高いこと、要支援希望患者でも両立支援コーディネーターの面談のみで復職の問題が解決する症例も少なくないことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①文献レビュー調査ならびに②国内施設実態インタビュー調査においては、研究協力者2名(産業医科大学第2内科学 大学院生 柳生圭士郎・中村勇輝)の協力を得て調査を行い、その結果は第88回日本循環器学会学術大会において発表を行った。また、③についても同様に分析を行い、ePROシステムを構築する上で基盤となる情報を集積している。これらのことから、研究計画において予定していた本年度のプラン①から③については、概ね順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究計画書の予定通り、本年度の①から③の調査で得られた結果を統合して、④心疾患患者の両立支援のエビデンス、プロセスの現状と課題を整理することで両立支援と本研究実施のための情報基盤を整備する。さらに、⑤心疾患患者の必要な治療と就労の両立支援・現状の課題とその解決案などを考慮した上で、妥当と考えられる標準的両立支援プロセスのプロトタイプを作成する。プロセス及びアウトカム評価の為に、両立支援上必須となる情報(a. 本人要因(年齢・性別・家族構成など)、b. 疾病要因(疾患名・重症度・治療内容など)c. 職場要因(職業・職種・雇用形態・作業内容・事業所規模・産業医の有無など))の他に、⑥ePROにおいて患者自身が報告すべき項目(例: 職場復帰の有無・休職日数・職場側の配慮・精神的影響・病気の受け止め方の経時的変化・職場における人間関係の変化・支援に関する受け止め方・作業内容の変化など)を検討する。その上で、⑦策定した評価方法を実際にPCやスマートフォン(android, iPhone)で利用可能なePROプログラムを作成する。ePROに入力された評価データはインターネットを介してサーバーに送信するシステムを構築し、その作動の安定性・安全性を確認を行う。作動上問題がなければ、実際の心疾患患者の要両立支援者にインフォームドコンセントを得た上で、ePROプログラムによる評価を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定通り研究は遂行できたが、支出の節約により支出が予算額を下回ったため次年度使用額が生じた。
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