研究課題
現在我が国は,高齢化がさらに進行した超高齢社会を迎え,今後ますますより年齢の高い高齢者の人口増加が見込まれるが,彼らは機能的・社会的に脆弱で,地域や社会において孤立状態に陥りやすい,また,疾病や生活障害,経済困窮など様々な問題が顕在化しにくく,結果困難事例化するリスクが高い層でもある.現在我が国が目指す「共生」社会の構築には,こうした高齢者の社会的孤立を解消し,地域生活の継続可能性を高めるひつようがある.そのためには,サポーティブな環境を整備するだけでなく,高齢者自身が適切に周囲に援助を求めること,すなわち援助希求行動(help-seeking)が重要であると考えられる.こうした点を踏まえ,本研究では,高齢者を対象として,個人内要因として援助希求行動や援助希求能力と環境要因またその交互作用を明らかにし,最終的に地域生活の継続可能性,または社会的孤立リスクの低減可能性といかに関連するか検討することを目的としている.まずは援助希求行動の実態の評価,すなわち,自身の支援ニーズに対し実際に援助希求行動をとったかどうかの実態を調査することを目指し,本年度は,調査項目の策定と調査の実施準備を行った.調査項目は,日常生活支援ニーズリスト(杉山・宮前ら,2017;宮前・杉山ら,2018)を活用し,高齢者自身の支援ニーズと,支援ニーズに対し実際に他者に支援を求めたか,支援を得られたかを聴取し,援助希求行動の実態を評価する.調査フィールドとなる自治体と調整を完了し,令和6年度に地域在住高齢者を対象とした調査を実施する予定である.
3: やや遅れている
高齢者を対象とした援助希求行動に関する研究が少ないことを踏まえ,本年度は援助希求行動ならびに高齢者本人を取り巻く支援的環境に関する基礎的なデータの収集を目指した.本年度中にこの準備が整い,令和6年度早期には調査を実施可能である.研究計画に沿って,日常生活支援ニーズリストに基づき,①支援ニーズ,②そのニーズが充足されているか,③ニーズ充足のために自ら周囲に援助を求めたかを評価する項目を作成し,これらを含む調査票を作成した.次に,調査フィールドを策定し,郵送により調査票を配布する準備を完了した.令和6年度4月~5月にかけて,調査票を発送,回収する予定である.
支援ニーズリストを用いた援助希求行動評価法の妥当性を検証した上で,この調査とは異なるフィールド,または対象者に対し,個体内要因として,被援助志向性,パーソナリティ,社会的スキル,個人的信念(例:迷惑をかけたくない,自立志向性),身体的健康(疾病,フレイル,要介護状態),精神的健康(うつ),経済状況等を評価する.個体外・環境的要因として,サポートネットワーク(対象と規模),地域資源(ソーシャルキャピタル),社会通念や文化的背景(例:自己責任論),地域社会における高齢者に対する意識(敬老意識,エイジズム的傾向)に関するデータを収集する.それらの要因と援助希求行動との関連を,重回帰分析等の統計手法を用いて明らかにする.
本年度は主に,次年度に向けた調査実施の準備を中心に作業を進めたため,当初予定していたデータ保管や解析のためのPCなどの高額備品や,研究補助員の雇用といった費目の使用の必要性が生じなかった.これらの費目は次年度以降,実際の調査が開始後に,当初の予算と合わせて使用していく予定である.
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