研究課題/領域番号 |
23K10416
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研究機関 | 京都橘大学 |
研究代表者 |
小田桐 匡 京都橘大学, 健康科学部, 准教授 (30388904)
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研究分担者 |
岩瀬 弘明 神戸国際大学, リハビリテーション学部, 准教授 (40633350)
兒玉 隆之 京都橘大学, 健康科学部, 教授 (80708371)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 自動車運転 / 脳損傷後遺症者 / 高次脳機能障害 / 情報処理速度 / 運転の認知基盤 |
研究実績の概要 |
脳損傷後遺症者の科学的な運転再開評価と支援の実現に向け,①運転能力を適切に反映する生理学的指標の確立,②運転能力と相関する運転シミュレータ利用時の生理学的指標の探索,③後遺症者の運転再開を支える認知メカニズムの解明と認知メカニズムに対応した運転再開支援方法の確立を目指している.まずは既に運転再開を果たした後遺症者を対象に,運転時の脳波,視線,自律神経について計測および分析を開始している. 2023年度は脳損傷後遺症者40名ならびに対照健常成人40名のデータ計測と分析を進めた.教習所内および路上教習コースにおける運転能力,運転時の視線,脳波,心電図計測,運転に関連するとされる神経心理学的検査(遂行機能,注意,情報処理速度,記憶)についてデータ収集と分析を進めてきた. 脳損傷後遺症者に共通する認知特徴の1つは,情報処理速度の低下である.情報処理速度の低下は,運転に要求される認知,判断,実行の全ての処理に影響し,安全運転には致命的となりうるため,運転再開には適切な代償戦略が要求される.素早い判断と運転操作を実現するには,より一層頻回な外界探索と,より事前の段階からの情報探索が要求されると考えられた.そこで,熟練した技能一般で発揮される超短時間注視の頻度と,当座の運転操作よりも後々の運転操作に関連する事前的予備的な視覚探索の指標である先行注視の頻度について分析を行った.教習所指導員による路上運転評価に差は認めなかった.他方,路上運転時の超短時間注視は後遺症群で有意に増大していた.先行注視頻度には有意差を認めなかったが,情報処理速度の低下を反映するとされる神経心理検査の成績と有意な相関を認め,この関連性は健常群よりも有意に増大していた. 脳波や自律神経も含めた分析がさらに求められるものの,後遺症者の安全運転を実現するための認知的代償戦略の特徴の一端が明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施場所として契約していた教習所が突如閉校する事態に遭遇した.そのため当初予定していたデータ計測が不可能となった.しかしながら,年度後半に近隣の教習所によって研究協力が引き継がれる運びとなり研究再開が展望できる事態となった.すでに新規契約施設とも顔合わせと研究会議を実施しており,計測準備が整えば計測再開が見込める状況である.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は8月後半から9月前半にかけて契約教習所にて運転計測を実施する予定である.より科学的妥当性を伴った計測となるよう,自動車運転時の生理学的指標計測を専門とする研究機器の会社と協力し,脳波をはじめとした各種生理学的指標間の時間同期計測法の確立を具体化している.これを7月頃までには終え,大学の夏期長期休暇期間中に,約30名の後遺症者と健常成人のデータ収集を行う予定である.データ分析では,とくに複雑運転場面での脳内活動の特徴と,視覚探索や自律神経反応との脳内活動の関連性分析を進めていく予定である.頭頂葉内側面の楔前部の活動は危険認知との関わりが報告されているため,この点に焦点を絞ってデータ分析を進めていくことになる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度の研究計測予定が,契約していた教習所の閉校により実現不可能となったため2024年度の持ち越すこととなった. 2024年度は新しい教習所と契約が進み,夏頃に使用する予定である.研究費は機器のレンタル,研究補助員の雇用費用,国際学会の参加など研究成果の発表費用となる.
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