研究課題/領域番号 |
23K10479
|
研究機関 | 青森県立保健大学 |
研究代表者 |
李 相潤 青森県立保健大学, 健康科学部, 教授 (30325914)
|
研究分担者 |
板垣 篤典 東京都立大学, 人間健康科学研究科, 助教 (90871377)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
キーワード | 糖尿病 / 高濃度酸素 / 筋組織 / 毛細血管 / ミトコンドリア活性 |
研究実績の概要 |
筋組織は「TypeⅠ線維」「TypeⅡa線維」「TypeⅡb線維」に区別され、TypeⅠとTypeⅡa線維は有酸素運動によるエネルギー代謝に大きく関与する。つまり筋量が少ない生体やTypeⅠやTypeⅡa線維が少ない糖尿病における血糖値の改善には、筋組織の特性を用いた有酸素運動によるエネルギー代謝の賦活が求められる。そこで、2023年度の研究ではⅠ型糖尿病(DM)ラットにおける常圧環境下の高濃度酸素暴露が骨格筋及び毛細血管に及ぼす影響を検討した。 実験動物は無作為に対照(CON)群、DM群、DM+40%酸素濃度暴露(DM40)群に分類した。DMモデルラットはStreptozotocinを腹腔内投与して作成した。組織学的分析としてはATPase染色とアルカリホスファターゼ染色を施し、毛細血管数と毛細血管・筋線維比(C/F ratio)を算出した。その結果、毛細血管数についてTypeⅠ線維の割合が高いヒラメ筋ではDM群と比較してDM40群が有意に高かった(p<0.001)。そしてTypeⅡ線維の割合が高い長趾伸筋についてもDM群と比較してDM40群が有意に高かった(p<0.01)。そしてC/F ratioについてヒラメ筋ではDM群と比較してCON群とDM40群がそれぞれ有意に高かった(何れもp<0.001)。長趾伸筋についてもDM群と比較してCON群(p<0.001)と、DM40群が有意に高かった(p<0.01)。 DM群は骨格筋内毛細血管数が減少したが、常圧高濃度酸素暴露したDM40群における骨格筋内毛細血管数の減少は抑制された。とくに酸化的リン酸化による酸素供給との関連が高いTypeⅠ線維における毛細血管の変化に寄与することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、1型DMラットにおける高濃度酸素暴露が生体に及ぼす影響について検討した。実験動物は無作為に対照(CON)群、DM群、DM+40%酸素濃度暴露(DM40)群に分類した。DMモデルラットはStreptozotocinを腹腔内投与して作成した。高濃度酸素暴露は専用の箱に実験動物と実験動物が接しないように酸素モニタセンサー、高濃度酸素ボンベからの管をいれて密封した。実験中の酸素濃度は酸素調整器と酸素モニターを用いて調整し、酸素暴露は1日1回、60分、4週間同時刻に実施した。組織学的分析としてはATPase染色とアルカリホスファターゼ染色を施し、毛細血管数と毛細血管・筋線維比(C/F ratio)を算出した。 その結果、毛細血管数についてTypeⅠ線維の割合が高いヒラメ筋ではDM群と比較してDM40群が高く、TypeⅡ線維の割合が高い長趾伸筋についてもDM群と比較してDM40群が高かった。そしてC/F ratioについてヒラメ筋ではDM群と比較してCON群とDM40群が高かった。長趾伸筋についてもDM群と比較してCON群とDM40群が高かった。これらのことから、常圧環境下における高濃度酸素暴露はDM改善における新たな方法の可能性が示唆された。2023年度に実施した高濃度酸素暴露の実験は順調に進行した。しかし高濃度酸素暴露の実験が終了して得られた血漿は保管トラブルによって酸化ストレスの解析ができず、次年度の追加実験となった。
|
今後の研究の推進方策 |
糖尿病(DM)による高血糖は骨格筋の毛細血管障害を招き、Capillary-to-Fiber Ratioを低下させる。また、DMは骨格筋のミトコンドリア活性の低下をもたらし、代謝異常や生体内における活性酸素種の蓄積を招く。高気圧酸素療法による血管新生の促進や高濃度酸素暴露によるミトコンドリア活性の亢進について報告されている。我々は2023年度にDMにおける高濃度酸素暴露がC/F ratioとミトコンドリア活性を改善することが示唆した。また、筋組織のTypeや毛細血管は、有酸素運動に大きく影響し、酸素との関連が高い。そこで、2024年度は、DMモデルラットを用いて常圧時の高濃度酸素暴露と有酸素運動の併用が骨格筋の毛細血管及びミトコンドリア活性に及ぼす影響を検討する。 ①実験動物は生後7週齢のWistar系雄性ラットを使用し、無作為にControl群(CON)、Ⅰ型DM(DM)群、1型DM+運動(DMEx)群、1型DM+30%酸素濃度暴露+運動(DM30Ex)群、1型DM+40%酸素濃度暴露+運動(DM40Ex)群、1型DM+50%酸素濃度暴露+運動(DM50Ex)群に分類する。②高濃度酸素暴露は専用の箱に実験動物を入れ医療用酸素及び窒素高圧ガスボンベから配管と箱内空気圧調整用のベントを設置し調整する。③有酸素運動のトレッドミル速度は28m/minとする。④実験終了後は筋組織を摘出し、毛細血管の組織学的分析にはアルカリホスファターゼ染色とコハク酸脱水素酵素染色を施す。その後、顕微鏡用デジタルカメラ装置を用いて撮影し、汎用画像処理ソフトを用いて解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度は国際学会への参加予定がある。
|