研究課題/領域番号 |
23K10498
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
氏家 悠佳 (小林悠佳) 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第五部, リサーチフェロー (20511562)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | シュワン細胞 / 髄鞘化 / 末梢神経 / 低酸素 |
研究実績の概要 |
末梢神経髄鞘化におけるシュワン細胞の分化制御機構の重要性が提唱されているが、詳細な基盤分子機構は不明な点が多い。これまでに末梢神経髄鞘化に関わる因子を探索する中で低酸素応答反応において中心的に機能するHIF1αが髄鞘化促進因子となることを見出した。酸素は、生体にとってエネルギー産生に不可欠なガス分子であるが、局所で低酸素環境が保持されることが報告されている。我々は、発達初期の末梢神経で低酸素プローブに応答する低酸素環境が存在することを組織染色により明らかにした。また、傷害後末梢神経においても一過性に低酸素環境が形成され、シュワン細胞内にHIF1αが安定して発現することが分かった。したがって、末梢神経の組織中の酸素分圧は発達のステージ、生体の健康状態(疾病や創傷)によって変調することが示唆される。HIF1αはエネルギー代謝やストレス応答など様々な生体反応に関わる遺伝子発現を調節する。しかしながら、髄鞘化に関わる遺伝子制御にHIF1αが関与するかについては検討されていない。本研究では、ラットのシュワン細胞を用い、HIF1αによるmyelin basic protein(MBP)遺伝子プロモーター活性への影響をレポーターアッセイにより評価した。HIF1αはプロリン水酸化酵素によるプロリン残基の水酸化により分解されてしまうため、プロリン残基をアラニンに置換した変異体HIF1α遺伝子導入した。同時に、myelin basic proteinのプロモーター下流にFirefly-luciferaseを組み込んだプラスミドを遺伝子導入し、Luciferase活性を測定した。その結果、コントロールベクターを導入したシュワン細胞と比較してHIF1αの安定発現することでMBPのプロモーター活性が増強することが明らかとなり、HIF1αによって直接的にMBP遺伝子が発現調節されることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般的なHIF1αの遺伝子転写についてはこれまでおおむね解析が進んできたが、シュワン細胞におけるHIF1αの転写因子としての役割は明らかにされていなかった。本研究で、実際に主要なミエリン関連遺伝子に関する転写活性にHIF1が関与することを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに公開されている遺伝子データベースからMBP以外のミエリン関連遺伝子のプロモーター領域における低酸素応答エレメントの存在を調べてみるとOCT6やErbb2などにも存在している。シュワン細胞を用いて、HIF1αを安定的に発現させることでHIF1α依存的に転写活性を受ける遺伝子について網羅的に解析する計画である。解析結果から、末梢神経疾患に関連のありそうな遺伝子が見いだし、実際に疾患モデルを作製して詳細に調べることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の進捗状況と学会日程がマッチングしなかったため、学会発表に計上していた旅費が請求額より下回った。物価高騰のため実験で用いる試薬や動物などの物品に充てることを計画する。
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