研究課題/領域番号 |
23K10745
|
研究機関 | 仙台大学 |
研究代表者 |
藪 耕太郎 仙台大学, 体育学部, 准教授 (90642041)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 明治期日本の柔術史 / 大阪における柔術 / 上西貞一の経歴と動向 / 前田光世のスペインでの活動 / 武道の世界史 |
研究実績の概要 |
2023年度は、①柔術・柔道に関する国内の史資料の収集と整理、②研究分野を同じくする専門家とのワークショップの開催に努めた。 ①では、『格闘武術・柔術柔道書集成』を購読し、内容の把握に努めた。明治期の武道の実態については、講道館柔道に関する研究は一定の厚みがある一方で、柔術諸派の動向については殆ど明らかになっておらず、特に地方流派に関する記録は僅少である。この点で同書は柔術の歴史を明らかにする史料が豊富であり、柔道とは異なる位相で柔術が独自に展開していく様子を理解できた。 また、本課題で着目する柔術家(上西貞一)と柔道家(前田光世)に関する史資料も収集した。上西については、上西が拠点としていた大阪での活動状況を把握するために、前世紀末の大阪で刊行されていた新聞や雑誌の記事を渉猟した。結果、上西が学んでいた柔術の流派や所属する道場などの情報を得ることができた。ただし、渡欧に至った経緯は未だ明らかではない。前田については、前田の手記を元に出版された『世界横行柔道武者修行』を精読し、スペインでの活動内容の詳細をある程度まで突き止めることができた。 ②では、武道の海外伝播史の専門家4名(中嶋哲也氏(茨城大学)、五賀友継氏(国際武道大学)、劉暢氏(国際武道大学)、星野映氏(早稲田大学))に呼びかけ、小規模なワークショップを開催した(早稲田大学26号館、11月12日)。武道の世界史を編むという目標に添って開催されたこのワークショップにおいて、それぞれの担当領域を確認するとともに、前世紀転換期スペインにおける柔術ブームの位相が、武道のグローバル化の全体像においてどう位置づけられるかを議論した。なお、本ワークショップは現在、新たにアレクサンダー・ベネット氏(関西大学)を加え、『2024年度武道・スポーツ科学研究所プロジェクト研究』(国際武道大学)へと昇華している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
遅れている理由は以下の2点である。 第1に、今年度から大学を移ったことに伴う遅滞である。2023年12月頃から引っ越しの準備等で十分な研究時間を確保することができておらず、着任後も新たな住環境や研究環境に慣れていない。また、新任校ではこれまで担当した事の無い授業科目を担当しており、その授業準備に追われている。 第2に、他の研究課題(単著の出版)との兼ね合いである。上記1の理由に伴い、当初の予定では2023年度内に終わらせる計画だった課題が達成できなかった。現在、この課題と本課題とを並行して進めてはいるものの、エフォートの割合を必ずしも半分に割ることが難しく、当面の間は前者に比重を置かざるをえない。
|
今後の研究の推進方策 |
現状、充分な研究時間が確保できない現状に鑑み、最終年度に1年間の研究機関の延長を申請することを念頭に置いて計画を練り直したい。 第1に、2024年度は引き続き国内での史資料の収集と整理を進める。特に上西貞一については、上西の渡欧を斡旋したウィリアム・バートン=ライトというイギリス人に関する研究がこの1年間で急速に進んでおり(たとえば、David Brough, The British Ju-jitsu Society and the influence of Kodokan Judo on early jujutsu in the U.K, Martial Arts Studies, 2023, pp.42-60)、これら先行研究の成果を踏まえて史資料の収集に臨みたい。また、今年度末に、近代日本身体史の専門家であるアンドレアス・ニーハウス氏(ゲント大学)とともに、国際ワークショップの開催を予定している(オンラインでの実施の可能性もある)。武道のグローバル化の歴史を問う本課題については、国際的な視点、特にヨーロッパの武道史研究者との議論を通じて深みが増すと考えている。 第2に、2025年度にスペイン(マドリッド、バルセロナ)での調査を実施する。当初の計画では2回の渡航を計画していたが、円安局面の長期化予測に鑑みて、1回に減らす可能性も想定している。また、効率的に調査を進めるため、現地の専門家でスペインの武道史に詳しいラウル・ガルシア・サンチェス氏(ポリテクニカ・デ・マドリッド大学)に調査協力を依頼している。なお、同年度内に体育史学会もしくはスポーツ史学会に論文を投稿したい。 第3に、2026年度は予算の残高に合わせて可能であれば追調査を実施しつつ、成果をまとめる。投稿先は体育学研究(国内)もしくはMartial Arts Studies(国外)を予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2024年4月より勤務先が変更となった影響で研究の進捗が遅れているため、2023年度に予定していた予算を消化しきれなかった。2024年度中を通じては、主に書籍の購入及び日本国内での史資料の渉猟に費やしたい。具体的には、『格闘武術・柔術柔道書集成(Ⅱ)』(\136,400-)、『武道傳書集成』(¥88,000-)などの柔術・柔道史に関する必読文献、The Sherlock Holmes School of Self-Defence(¥2,400-)などの欧州における柔術・柔道史に関する書籍、State and Nation Making in Latin America and Spain(¥33,600-)などの近代スペイン史の基礎文献の購入費に充てるほか、大阪府立図書館、大阪市立図書館、兵庫県立図書館、神戸市立図書館などでの調査費および複写代に充てたい。
|