研究課題/領域番号 |
23K10815
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
森島 真幸 近畿大学, 農学部, 准教授 (40437934)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 多価不飽和脂肪酸 / EPA / 心房細動 / 電気的リモデリング |
研究実績の概要 |
高脂肪食負荷により心房細動を誘発しやすいモデル動物(マウス)を作製し、EPAの同時投与による心房細動予防効果をin vivoで検証した。心房高頻度刺激による心房細動誘発実験を行ったところ、8週間の高脂肪食を負荷した群では、心房細動の発症率は100%であり、心房細動発症後の持続時間も著しく延長していた。一方、EPAを併用投与した群では、心房細動の発症率の低減、心房細動の持続時間の短縮がみられ、EPAによる心房細動予防効果が認められた。この際の心房の興奮を表すP波高は高脂肪食群で有意に低く、EPA群では回復がみとめられた。P波幅は高脂肪食で延長し、EPA群では回復傾向がみとめられた。一方、心房から心室への伝導を表すPR間隔、心室の興奮を表すQRS間隔は群間で有意差は認められなかった。このことから、高脂肪食の負荷は心房受攻性を亢進させる可能性が示唆されたため、左心房、右心房組織における炎症性サイトカイン(TNF-alpha, IL-1b, IL-10)とイオンチャネル(Nav1.5, Cav1.2, Kv1.5)の発現をリアルタイムPCRで検証した。その結果、左心房において炎症性サイトカイン群のmRNA発現は、高脂肪食群で有意に増加していたが、EPA群では回復を示したことから左心房では炎症が惹起されていることがわかった。また、左心房におけるNav1.5 mRNA発現は高脂肪食で低下傾向を示したが、EPA群では高値を示したことから、心房における伝導障害の可能性が示唆された。さらに、マッソントリクローム染色により、左心房における線維化が確認されたが、EPA群では回復が認められた。以上の結果から、EPAの長期摂取は、高脂肪食負荷による炎症の惹起を抑制することで、心房の線維化やイオンチャネルの発現異常を是正し、心房受攻性を改善しAFの発症予防に寄与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本予算により、心房高頻度刺激による心房細動誘発実験の測定システムを確立できたことで、実験が予定通りに進んだ。心電図のパラメータについても、解析可能となったため高脂肪食やEPAが心機能に及ぼす影響を評価することが可能となったため、順調に研究が進展した。
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今後の研究の推進方策 |
EPAが高脂肪食負荷による心房受攻性の亢進に抑制的にはたらくことが分かったため、食餌として摂取したEPAがどのように心房へ作用するのかについて、血中と心房組織のリピドミクス解析を行い評価する。循環血中における脂質組成の変化、あるいは心房組織限局的な変化なのかを評価することで、EPAによる心房細動予防における作用点を明確にする。リピドミクス解析により、心房細動を誘発する際の脂質組成と、心房細動が予防されるときの脂質組成を比較することが可能となるため、心房細動の一次予防のための食事組成の検討につながることが期待される。また、高脂肪食による心房への圧負荷、容量負荷についてはEx vivoで電気生理学的解析を行い、食餌成分が心機能に及ぼす影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬を購入する予定であったが、予定よりも試薬の使用量が少なく済んだために次年度使用額が生じた。次年度は、高脂肪食やEPAの摂取が循環血、及び心筋組織の脂質組成を変化させることで、心臓電気活動に影響するかについてリピドミクス解析を行い、EPAが心房細動予防にはたらく作用点を解明する(血液を介した全身作用か、臓器における局所作用かを同定する)ための試薬購入のために使用する。
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