研究課題/領域番号 |
23K10842
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研究機関 | 第一薬科大学 |
研究代表者 |
岡崎 裕之 第一薬科大学, 薬学部, 講師 (50734125)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | がん / 漢方薬 |
研究実績の概要 |
本研究は、がん治療における新たなアプローチとして、漢方薬の長期曝露ががん細胞に与える影響を評価することを目的としている。漢方薬は、古くから伝統医療として使用されており、近年では化学療法の副作用を軽減する目的で併用されることが増えている。しかしながら、漢方薬そのものががん細胞の増殖を抑制する可能性については、まだ十分に解明されていない。本研究は、そのメカニズムの解明と臨床応用への可能性を探るための基礎データを提供することを目指している。 初年度の研究では、特に乳がん細胞の生存率に焦点を当て、漢方薬曝露後の細胞生存率を検討した。ヒト乳がん細胞株に対して各漢方薬の熱水抽出物を曝露し、短期(3日間)および長期(2週間)曝露後の細胞生存率を評価した。この結果、複数の漢方薬において細胞の生存率が低下しており、特に小青竜湯、麻黄附子細辛湯、麻杏よく甘湯、半夏瀉心湯を曝露した細胞において、50%を上回る低下率を示した。これらの結果は、上記の漢方薬が乳がん細胞に対して顕著な抗腫瘍効果を有する可能性を示唆している。 さらに、各漢方薬曝露後の細胞における遺伝子発現量を測定したところ、一部の漢方薬によってc-Myc、c-Fosといった細胞増殖制御因子の発現が低下していた。一方で、同程度の細胞生存率を示した漢方薬においては異なる遺伝子発現の挙動を示したことから、それぞれの細胞生存率低下の機序は異なるものが存在していることが示唆されている。 これらの成果は、漢方薬の抗がん効果を理解するための重要な基盤を提供するものであり、将来的な臨床応用への道を開く可能性がある。本研究の初年度に得られた知見は、漢方薬のがん治療への応用可能性を支持するものであり、今後の研究の進展に大きな期待を寄せている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、漢方薬の長期曝露が乳がん細胞に及ぼす影響を網羅的に評価することを目的としているが、購入予定であった漢方薬の一部が販売制限されていたため、当初予定していた漢方薬を購入できず、実験の進行にやや遅れが生じた。しかし、購入できた漢方薬を用いた細胞生存率の検討、及び遺伝子発現の検討によって、一定の進展を遂げている。 販売制限の影響を受けたものの、代替薬剤を用いることで一定の成果を挙げることができた。販売制限が解除され次第、予定していた漢方薬を追加購入し、同様の実験を進める予定である。 現在までの進捗状況としては、乳がん細胞に対する漢方薬の有効性を示す初期データを得ることができており、これらの知見は、本研究の目的を達成するための重要なステップとなる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、初年度に得られた成果を基に、さらに詳細なメカニズムの解明および他のがん細胞株への適用を進めることで、漢方薬のがん治療における有効性を確立することを目指す。以下に、具体的な推進方策を示す。 まず、当初予定していた全ての漢方薬を購入し、未実施の曝露実験を完了させる。特に、長期曝露実験を重点的に行い、がん細胞の生存率およびmTORシグナルへの影響を包括的に評価する。加えて、乳がん細胞株以外の細胞、ヒトメラノーマ細胞株(MDA-MB-435)に対しても同様の実験を実施し、漢方薬の抗腫瘍効果の普遍性を検証する。これにより、特定のがん細胞種に限定されない広範な効果を確認する。 また、漢方薬がmTORシグナル経路に対して与える影響を解析するため、上記の検討において細胞生存率に影響を与えた漢方薬を中心として、mTORシグナル経路における具体的な変化を解析する。特に、mTOR下流因子の発現変動を明らかにし、漢方薬の分子メカニズムを解明する。これらのデータが得られた後に、mTOR阻害薬と漢方薬との併用効果について検証し、漢方薬と既存の抗がん剤との併用療法の可能性を探る。 これらの推進方策を通じて、漢方薬のがん治療における有効性を確立し、将来的な臨床応用への道を切り拓くことを目指す。
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