研究課題/領域番号 |
23K10972
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研究機関 | 京都橘大学 |
研究代表者 |
Hu Di 京都橘大学, 健康科学部, 助教C (60758580)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 慢性疲労 / ストレス / 内分泌 / グレリン / レプチン / 食欲 |
研究実績の概要 |
本研究は慢性疲労モデル動物を使い、疲労負荷による体力・モチベーションの低下、身体疼痛、体温調節異常、疲労回復の顕著な遅延など慢性疲労症候群の臨床像に似た症状を明らかにしてきた。2023年度には疲労の体内蓄積による内分泌調節異常、特にレプチン・グレリンの制御異常について検討を行った。 疲労負荷初期(3日間)にレプチンの血中濃度が変化しなかったに対し、負荷中期(8日間)に初期レプチンの血中濃度が半分に、さらに負荷後期(14日間)になると1/4まで減少した。レプチンの血中低下は、空腹時によく観察されるが、慢性疲労モデルは常に摂食行動を取っており、餌消費量は非負荷条件より約1.5倍増加したので、水浸負荷による空腹状態下のレプチン低下ではないと考えられる。一方、グレリンの血中濃度が水浸負荷初期から約2倍に増加し、負荷中期・後期に同程度の濃度が維持された。グレリンの血中濃度増加は、非負荷条件より約1.5倍の餌消費量増加の原因と考えられる。 さらにACTHおよびa-MSHの血中濃度も上昇した。グレリンが視床下部弓状核においてNPY/AgRPニューロンを活性化させ、POMC/CART神経を抑制する。POMCシグナル下流に位置するACTHとa-MSHの増加が、上昇したグレリンの視床下部POMC神経を抑制できない状態を示唆された。これらのダイナミックな変化を元通り状態に戻す時に、形成した慢性疲労に対する影響を検討した。レプチンリコンビナントタンパク質投与が疲労負荷後の夜間自発活動量回復が大幅に促進された。それに対し、グレリン受容体阻害剤投与による疲労負荷後の夜間自発活動量回復が認められなかった。レプチンがBBB通過できるので、疲労負荷後の動物に補充することにより、直接中枢神経に作用し、変調となった制御異常を是正した可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は申請時に提出した2023年度の計画通りに進めていた。まず、14日間の水浸負荷により慢性疲労モデル動物を作製した。動物にレプチンリコンビナント蛋白質もしくはグレリン受容体阻害剤の腹腔内投与を行った。投与タイミングおよび投与濃度に関しては既報論文(Lu et al, PNAS 2006; Lutter et al. Nat Neurosci 2008 )を参考した上、以前に行った投与実験結果に合わせ、1日1回インジェクション(レプチンリコンビナントタンパク質:3mg/Kg;グレリン受容体阻害剤:80ug/Kg)×5日間にした。その結果、対照群(生理食塩水投与)に比較すると、レプチンリコンビナントタンパク質投与が疲労負荷後の夜間自発活動量回復が大幅に促進された。一方、グレリン受容体阻害剤投与による疲労負荷後の夜間自発活動量回復が認められなかった。長期投与、特に水浸負荷期間内にレプチンリコンビナント蛋白質とグレリン受容体阻害剤投与効果を確認するために、 さらに、レプチンリコンビナント蛋白質とグレリン受容体阻害剤の長期投与法として、第3脳内内に透析プローブを設置し投与検討を行った。(長期、動物頭部に固定するガイドカニューレと繋いた頚背部皮下埋入浸透圧ポンプから注入)を行う。 慢性疲労モデル動物に適する条件を検討する。投与前後の自発活動量や強制負重水泳、摂食量等を検討し、レプチン・グレリンの影響を受ける血中ACTHやa-MSHなどの測定を行った。
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今後の研究の推進方策 |
来年度、脳室内のレプチン・グレリン受容体アンタゴニスト投与による脳内神経伝達物質(セロトニン・カテコールアミン等)の変化を把握するために、HPLCを用いて脳室液/脳脊髄液の微量成分分析を行う予定。 またPETイメージングを用いて、慢性疲労によるレプチン・グレリンの中枢神経変調を捉え、関連領域を特定する。 方法:3日間・8日間・14日間に疲労負荷させた動物の頭部PETイメージングを行う。PETトレーサーは[18F]FDGと[18F]-FBA-leptin(Ceccarini et al. Cell Metab 2009)を使用する。より詳細なプローブ集積情報を得るために、30分間のPETスキャン終了直後に、同じ動物の脳組織を使い、ARG(autoradiography)実験を合わせて実施し、慢性疲労により変化する脳内領域を特定する。さらに、レプチン・グレリンの脳内投与実験を行い、レプチン補充とグレリン阻害によって特定した脳内領域のPETトレーサー集積変化を捉える。次に、同一動物の脳組織切片を用いて、視床下部を中心にレプチン・グレリンの関連神経についてISH/RNAスコープを行い、両ホルモンの中枢制御変調の原因神経を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験は使用計画通りにおおむね順調に進展しているが、モデル動物の脳内投与実験の条件検討、特にリコンビナント蛋白質、阻害剤の短期・長期投与濃度が、末梢投与条件より難しかった。特に動物頚背部皮下に浸透圧ポンプを埋入し、頭部に固定するガイドカニューレと繋ぐ実験において、投与タイミングと投与濃度等の実験条件を複数回にわたって重なって検討を行った。そのため、本番の実験まだ行っていない。予定より多くの機材や試薬、動物等の購入していないので、次年度使用額が生じた。
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