研究課題/領域番号 |
23K11001
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
室田 一雄 統計数理研究所, 大学統計教員育成センター, 特任教授 (50134466)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 離散凸解析 / 最適化理論 / 数理工学 / 情報基礎 / アルゴリズム / 経済理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,整凸関数の概念を軸に据えて,離散凸解析の新たな展開を図ることである.この目的に沿って,以下の成果を得た. 連続変数の通常の凸解析においては,(凸とは限らない)多数の集合のMinkowski和をつくると凸集合に近づいていくという興味深い現象が,Shapley-Folkmanの定理として知られている.この定理は経済学の分野で1970年頃に発見されたものであり,かなり一般的な状況の市場において近似的な競争均衡が存在することの証明に利用されてきた.本研究では,整凸集合のMinkowski和に関して,同様の定理を示した.この研究成果は,M凸集合やL凸集合のMinkowski和に関して既に知られている結果に対して,新たな知見と一般化を与えるものである. 離散凸集合のMinkowski和が「穴」(凸包に含まれるがMinkowski和そのものには含まれない整数点)をもたないという性質は,離散凸集合概念の一つの望ましい基本的な性質と認識されている.この性質と離散凸集合を記述する行列のユニモジュラ性との関係を与える重要な定理が,2000年頃にDanilovとKoshevoyによって示されているが,その証明には抽象代数学の手法が用いられており,最適化分野の研究者には容易に理解できないという難点があった.本研究では,この定理に対して,多面体論と線形代数の概念だけを用いた初等的な証明を与えた. M凸関数の概念の序数的一般化である準M凸関数の最小化問題は,経済学においても重要な意義があり,最近でもこれに関する研究が見られる.本研究では,準M凸関数の場合とその変種である準M#(ナチュラル)凸関数の場合の性質とアルゴリズムについて,両者の差異を詳細に整理した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,整凸関数の概念を軸に据えて,離散凸解析の新たな展開を図ることである.今年度は,経済学との関連から,整凸集合のMinkowski和に関する論文2編と準M凸関数の最小化に関する論文を完成した.また,次の段階として,整凸集合の凸包の成す多面体を,離散凸性を保存する形で有界部分と錐構造をもつ部分に分解する方法を検討している. 以上のように,進捗はほぼ予定通りで,研究はおおむね順調に進展したと言える.
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今後の研究の推進方策 |
離散資源の公平配分問題については,研究代表者とAndras Frank氏との共同研究によって,この数年間に,大きな進展がもたらされた.その対象は,M凸集合,M2凸集合,ネットワークフローのように劣モジュラ関数によって記述されるマトロイド的な離散凸集合であり,そのアプローチは,アルゴリズムの設計を通じて離散構造の特徴が明らかにするというものである.一方,ごく最近,研究代表者と田村明久氏の共同研究によって,整凸関数と分離凸関数の対に関する双対定理が発見されている. 本研究では,今後,整凸関数の双対定理とその証明手法が離散資源の公平配分問題に どのように利用できるかどうかを検討する.これによって,マトロイド性や劣モジュラ性をもたない離散凸集合に対しても,公平配分問題の構造が解明できるものと期待している.これらの研究の遂行のために,田村明久氏(慶応義塾大学),森口聡子氏(東京都立大学)に研究協力者として協力を仰ぐ予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染症の影響で学会のオンライン化が進んだこともあり,出張旅費がかからなくなった.研究を進めていく上で必要な経費を執行したが,当初の見込み額と執行額に差異が生じた.次年度に請求する研究費と合わせて,物品費に充てることとする予定である.
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