研究課題/領域番号 |
23K11196
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
板倉 直明 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (30223069)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 生理的振戦 / 興味度推定 / 携帯端末 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、携帯端末利用時の生理的振戦から、呈示画面情報に対する興味度を推定し、その情報を収集するシステムを開発することである。携帯端末等で情報を取得する機会が増加した現在、個人特定に繋がらない生理的振戦で興味度推定が実現できれば、その利用価値は大きい。また、携帯端末を用いて、様々な状況や姿勢において生理的振戦を測定する研究は、アルコールや薬などの摂取が人間の運動制御系へ与える問題など、人の運動制御系を評価する新たな応用研究に繋がる。 令和5年度においては、最初に、生理的振戦とスマートフォンの画面操作の両方を用いて、興味度推定が出来るかを検討した。その結果、生理的振戦においてピーク周波数の最大振幅値が小さい時に興味あるページと答えた割合が80.6%となった。一方、画面操作において、スワイプ移動距離の変化割合が少ない時に興味あるページと答えた割合が76.5%となった。両者とも一致した割合は72.1%であり、より確実に興味あるページを抽出できる可能性を示した。また、画面操作が生理的振戦の測定結果に影響を与えているかを、画面操作ありの場合となしの場合で比較した結果、生理的振戦の測定値には影響を与えていないことも確認した。 次に、スマートフォンの持ち方により、得られる生理的振戦の特徴が変化するかも検討した。比較した持ち方として、肘を体に付けて肘から先を角度0度と45度にした場合、肘を机に付けて肘から先を角度0度と45度にした場合で比較した。肘を体に付けた状態では、生理的振戦のピーク周波数は変わらないがその最大振幅は、角度0度は角度45度の平均約1.7倍となった。一方、肘を机に付けた状態では、生理的振戦のピーク周波数は、角度0度は角度45度の平均約2.3倍となり、最大振幅値は僅かに角度0度の方が大きくなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最初に、生理的振戦とスマートフォンの画面操作の両方を用いて、興味度推定が出来るかを検討した。対象画面操作は、タッチ、スワイプ、ピンチインアウト操作である。スマートフォンの画面に呈示される漫画を読んでもらい、スマートフォンの加速度センサ値、及び画面操作ログを取得し、漫画読了後のページごとの興味度アンケートと比較した。その結果、生理的振戦においてピーク周波数の最大振幅値が小さい時に興味あるページと答えた割合が80.6%となった。一方、画面操作において、スワイプ移動距離の変化割合が少ない時に興味あるページと答えた割合が76.5%となった。両者とも一致した割合は72.1%であり、より確実に興味あるページを抽出できる可能性を示した。一方、画面操作が生理的振戦の測定結果に影響を与えているかを、画面操作ありとなしで比較した結果、生理的振戦の測定値には影響を与えていないことを確認した。 次に、スマートフォンの持ち方により、得られる生理的振戦の特徴が変化するかも検討した。比較した持ち方として、片手のスマートフォンを持った状態で、肘を体に付けて肘から先を角度0度と45度にした場合、また、肘を机に付けて肘から先を角度0度と45度にした場合で比較した。肘を体に付けた状態において、生理的振戦のピーク周波数は変わらないがその最大振幅は、角度0度は角度45度の平均約1.7倍となった。一方、肘を机に付けた状態において、生理的振戦のピーク周波数は、角度0度は角度45度の平均約2.3倍となり、最大振幅値は僅かに角度0度の方が大きくなった。 さらに、スマートフォンを振った時の生理的振戦を測定したところ、スマートフォンを静止させている時の生理的振戦より40倍以上の最大振幅値を示すことが分かり、スマートフォンを振ることで、より強くスマートフォンを保持しようとする意識が作用し、生理的振戦を増大させることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
興味度推定の精度を上げるためには、携帯端末の持ち方による生理的振戦への影響を考慮することが必要である。そこで、様々な状態で携帯端末の呈示画面情報を見た場合の生理的振戦の測定を行う。本年度は机に向かって椅子に座った状態で携帯端末を見ている想定で実験を行ったが、携帯端末の場合は、横臥状態、立位状態、歩行状態など様々な状態で、画面を見ていることが想定されるため、出来るだけ多くの状態で携帯端末の呈示画面情報を見てもらい、各状態での生理的振戦の特性を明らかにする。さらに周囲の環境に含まれる振動が、生理的振戦の特性に影響がないか調べるため、鉄道やバスなどの公共交通利用時での実験も行う必要がある。 上記のように、使用する周囲の環境の影響を調べるためには、不特定多数の利用者から、データを多量にかつ効率的に回収するシステムを開発する必要がある。そこで、携帯端末ではWebを介した情報呈示とデータ回収が容易なため、Webサーバーを用いた効率的な実験システムの運用を試みる。現在、協力企業の助けを借りて、試作バージョンを開発中である。この開発を急ぎ、早めに運用できれば、次年度中には、サーバーから多量のデータを得られることになる。そこで、これらの多量のデータを効率よく解析することを考え、解析用のコンピュータを5~10台程度用意し、解析スピードを上げる準備も同時に行う。 一方、スマートフォンを振った時の生理的振戦を測定したところ、スマートフォンを静止させている時の生理的振戦より40倍以上の最大振幅値を示すことが明らかになったため、携帯端末を振らせるなどの特別な持ち方で得られる生理的振戦を利用することで、その人固有の特性を明らかにし、興味度推定に利用できる生理的振戦のキャリブレーション方法を考案し、生理的振戦の個人差の違いも含めて対応できる興味度推定方法も開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
スマートフォンを支える部位の違いや、体の部分ごとの姿勢の違いなどによって、生理的振戦の特性がどのように変化するかを明らかにすることを本年度は優先した。そのため、実験室で様々なスマートフォンの持ち方を指示しながら、10名程度の被験者データを取得する実験を行った。その実験から得られるデータを解析するために必要な最低限の計算機資源だけに本年度においては予算を使ったため、当初の予定した使用額に至らなかった。 興味度推定に生理的振戦を使うためには、多くの実データを獲得する必要がある。本年度、サーバーを介して、漫画コンテンツを配信し、その閲覧中の生理的振戦データをサーバーに集めるようなシステム等の構築に協力して頂ける企業があり、その企業の努力によって、次年度には、そのシステムが使えるようになる見込みである。そのため次年度に、獲得した多くの実データを解析するための計算機資源を充実させることを考え、使用額を繰り越した。
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