研究課題
本年度は主に「地図特徴の改善」,「MAS(マルチエージェントシステム)の協調戦略設計手法の検討」をおこなった.まず「地図特徴の改善」としては,RoboCupの災害救助シミュレーションにおける災害救助部隊(マルチエージェント)の「協調戦略」と「環境(地図)の特徴」との依存関係を勾配ブースティング木を用いて分析した.これまでにも災害救助戦略と環境の特徴との依存関係を分析してきたが,対象とした地域の中には例外的な特徴(外れ値)を持つ地域が一定値域存在し,これを依存関係分析上の課題として挙げていた.そこで,外れ値に強い勾配ブースティング木(XGBoost)を用いて関係性の分析をおこなった.この手法はブースティングと決定木を組み合わせた手法であり,決定木の分枝により外れ値と正常な値を分けて扱うことができる.またXGBoostによる予測値と目的値の差を測る指標である損失関数は予測値と目的値の誤差に正則化項を加えたものであり,過学習や外れ値の影響を防ぐことが期待できる.依存関係の分析の結果,過去に実施したSVMやカーネル回帰分析と比べて大きく改善できたとはいえず,期待した結果とはならなかった.これには使用した協調戦略(災害救助部隊)の種類数や,シミュレーションデータ数が大きく影響していることが考えられ,本研究課題全体の遂行のためにも,研究計画に従った,新しいシミュレーションデータの準備が重要だと考えられる.次に「MASの協調戦略設計手法の検討」として,これまでの収集した災害救助戦略において,災害救助ライブラリのモジュールがどのように利用されているのかを調査した.その結果,モジュール間の参照関係や,頻繁に使用されているモジュールがある一方で,使用されていないモジュールがある事が分かった.次年度は以上結果を踏まえ,シミュレーションデータの解析にも取り組む計画である.
3: やや遅れている
本年度実施した研究の内,「MASの協調戦略設計手法の検討」として災害救助戦略ライブラリの見直しと改良については概ね順調に実施できた.災害救助戦略におけるモジュールの依存関係の調査に加え,これまで開発していた災害救助戦略の改良や,その仕組みを改めて調査,整理することで,まだ一部ではあるが,ドキュメントとしてまとめることができた.今後も災害救助戦略の改良を通して,更なるドキュメント化に加え,その成果による設計手法に関する検討も加えていきたい.また「交通シミュレーションへの応用」の準備として交通死亡事故データの分析や危険地域の算出に関しても取り組むことができた.さらに交通シミュレーションによる愛知県や名古屋市の交通の再現や,交通事故の再現などに関する実験を進めることもでき,この点は予定よりも順調に進められている.しかし「シミュレーションデータの収集」については十分,実施できたとはいえなかった.本年度は過去のシミュレーションデータの整理に加え,新規シミュレーションデータの作成の準備を行う予定であったが,十分に準備することができなかった.これは「地図特徴の改善」を優先して,新しい手法(勾配ブースティング木など)の調査と,その実現に時間をかけてしまったためである.新規シミュレーションデータの準備が不十分となったことは,勾配ブースティング木による地図特徴と災害救助部隊の協調戦略との依存関係の分析にも影響を与えることとなってしまった.次年度は,これを踏まえて,新しいシミュレーションデータの準備及び作成と,それを用いた勾配ブースティング木による再分析に取り組む予定である.以上のように研究に内容には順調に進んでいる部分と,やや遅れている部分があるため,全体としては「やや遅れている」と判断した.次年度は研究計画通りに準備して,遅れを解消できるように取り組む所存である.
次年度は,まず新規のシミュレーションデータの作成に取り組む予定である.新しいシミュレーションデータを作ることで,「地図特徴の改善」や「シミュレーションデータ解析」についてもスムーズに取り組むことができる.新規シミュレーションデータの作成にあたっては,大規模なシミュレーションとなるため,過去の研究で設計開発したシミュレーション管理システムを活用する.このシステムは実行だけでなく実行結果を効率良く管理することができるため,非常に有効であると考えられる.システムの利用にあたっては.最新の計算機環境への適応が必要となると予想されるため,関連ライブラリ群に合わせたシステムの更新と,動作のチェックをおこなう予定である.また,シミュレーションデータが正しく作成されているかを確認するための視覚化システムについても,同様の見直しと更新をおこなう予定である.シミュレーションデータの作成後は,本年度実施した勾配ブースティング木や過去におこなったカーネル回帰分析による依存関係の分析に加え,共分散構造分析などによる因果関係の分析や,共分散構造分析以外の因果関係分析の手法調査についても取り組んでいく予定である.「交通シミュレーションへの応用」としては交通流を再現するマルチエージェントシステムの設計について,既存のシミュレータの文献調査や,実際に使用を通しての調査を進める予定である.また交通シミュレーション上で動作するマルチエージェント(車両など)の再現手法についても,災害救助戦略の設計と同様に検討していく予定である.
次年度の成果報告をアイントホーヘン(オランダ)で予定している.また最近の円安の進行により,予定よりも多くの旅費を必要とすると予想したため.
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