研究課題/領域番号 |
23K11294
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
荻野 晃大 京都産業大学, 情報理工学部, 教授 (40407870)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 感性情報処理 / 感性情報学 / 感性工学 / ベイズ推論 / 自由エネルギー原理 / 音楽療法 / 気分誘導 |
研究実績の概要 |
本年度は,人の気分をポジティブに変化させるように設計した楽曲プレイリスト(以後,気分誘導プレイリスト)を対象として,気分誘導プレイリストを聞いた時の人の感性をベイズ推論によりモデル化する方法を設計した. 具体的には,対象(音楽)に対する個人の安定的な感性(特性感性)を,心の活性度と対応させて,5つのカテゴリ(高,高中,中,中低,低)で表現し,対象(音楽)を聴いた時に5つのカテゴリの感じる割合を感性として表現した.そして,対象(音楽)の持つ活性度と,その対象(音楽)を知覚したとき感じる感性の対応関係も確率として表現した.これは,ベイズ推論の枠組みでは,事前確率と尤度となり,これらを掛け合わせることによって事後確率,つまり,ある対象(音楽)を知覚した(聴いた)ときに感じる感性を数理的にモデル化した.このモデルを用いて,対象(音楽)を連続的に知覚した(聴いた)ときの感性の変化をシミュレーションする仕組みを実装した. 音楽療法において,気分誘導が起こる過程は,現在の凝り固まった気分(高揚していたり,落ち込んでいたりする状態)から,柔軟な気分(さまざま気分になり得るような中庸な気分)へと変化させ,最終的に目的とする気分(溌剌とした気分や落ち着いた気分)になると言われている.本モデルから算出される自由エネルギーの変化の過程は,この気分誘導の過程と同じような軌跡を描いた.この結果から,対象(音楽)を連続的に知覚した(聴いた)ことにより,感性がどのよう変化したのかをシミュレーションできる可能性が示唆された.来年度は,このシミュレーションが適切に感性を表現できているのかを調査する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,人の気分をポジティブに変化させるように設計した楽曲プレイリスト(以後,気分誘導プレイリスト)を対象として,気分誘導プレイリストを聞いた時の人の感性をベイズ推論によりモデル化する方法を設計した. そのモデルを自由エネルギー原理と事後確率により評価した結果,音楽療法で指摘されている心の変化を模倣するような結果となった.そのため,本モデルは心の状態を推定できる可能性が示唆された. ただし,現在のモデルは,1層での感性をモデル化している.しかし,感性の生成過程は階層的になっていると考えられるため,階層化への拡張を進めていく必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,人の気分をポジティブに変化させるように設計した楽曲プレイリスト(以後,気分誘導プレイリスト)を対象として,気分誘導プレイリストを聞いた時の人の感性をベイズ推論によりモデル化する方法を設計した. そして,気分誘導プレイリストを聴いている時の,人の感性をベイズ推論によりモデル化することができた. 今後は,モデルの推定精度を向上させるために,現在のモデルを拡張し,階層化させる予定である. また,気分誘導プレイリストを聴いている時の感性をシミュレーションした結果と,主観評価による評価との比較するための実験を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,ベイズ推論をもちいた感性のモデル化を行うことに集中して研究を行なったため,被験者実験等を実施していない.そのため,モデル化を行うために必要なPCを購入する以外の経費を使用せず,来年度に繰り越すこととした. 繰越した経費は,被験者実験の器具の購入及び,謝金,そして,実験結果を英語論文として執筆するための英文校閲費用と学会発表の費用に利用する.
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