研究課題/領域番号 |
23K11395
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
野田 響 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球システム領域, 主任研究員 (60467214)
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研究分担者 |
小杉 緑子 京都大学, 農学研究科, 教授 (90293919)
斎藤 琢 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 准教授 (50420352)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 近接リモートセンシング / フェノロジー / 常緑針葉樹林 / 冬季赤色化 |
研究実績の概要 |
本課題では国内の常緑針葉樹林の光合成生産量と分光反射特性の関係について、特に季節性(フェノロジー)に着目して生理学的・物理的メカニズムを解明するために、個葉から群落、地域までの各スケールでの研究を展開している。令和5年度は、針葉樹林の観測サイトである桐生サイト(ヒノキ林)と高山サイト(スギ林)における個葉の分光特性観測と、桐生サイトにおける群落観測データの解析を進めた。 桐生サイトでは観測タワーに林冠観測用の自動撮影カメラおよび分光放射計が設置されており、それらの観測値から、赤-緑植生指標(RGVI)、光化学反射指数(PRI)、ロドキサンチン指数(RI)の3種の植生指数を算出した。これらに加え微気象学的手法により得た総一次生産量(GPP)、群落の光利用効率(LUE)ついて、2017年から2021年の4年間にわたる季節変化パターンを解析した。その結果、冬季にはRGVIとRIが高くなる、つまり赤の色素ロドキサンチンが葉に蓄積して林冠が赤くなることが示された。この時、葉の強光阻害を防ぐ生理的な仕組みであるキサントフィルサイクルの指標となるPRIは低く、同時にGPPとLUEも低かった。さらに、この冬季の葉の赤色化は長期の低温、特に赤色化が始まる45日前の気温によって引き起こされており、この時にキサントフィルサイクルの抑制とLUEの低下を伴うことが示唆された。以前より、冬季の常緑針葉樹の葉におけるロドキサンチン蓄積による赤色化は知られていたが、群落スケールでの光合成生産との関係について、気温への応答も含めて解明したのは本研究が初となる。 また、RGVIと同様に緑と赤の反射率を使う植生指数は、落葉樹林では常緑針葉樹林と異なる季節パターンを示し、落葉樹林での詳細な葉フェノロジー観測に有効であることが明らかとなった。この知見は、今後、本課題にて衛星データによる広域の解析を進める上で有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
桐生サイト(ヒノキ林)において近接リモートセンシング手法により得られた植生指数とフラックスデータの4年分の季節変動の解析結果より、常緑針葉樹林の光合成生産量の季節変化は、特に冬季にロドキサンチンの蓄積による葉の赤色化が鍵となることに加え、冬季赤色化が赤色と緑色の反射光を利用した植生指数で検出可能であることが示された。この成果は、すでに論文として投稿し査読中である。赤色と緑色は多くの人工衛星センサーの観測波長帯となっていることから、今後、本課題の中で人工衛星データを利用した地域スケールの解析に、ほぼそのまま応用できるものと期待される。また、本課題で研究対象としているもう1カ所の調査地である高山サイト(スギ林)についても、微気象学的観測データからGPPの算出が2023年観測分まで完了しており、群落スケールの分光観測データも入手している。高山のデータについても桐生サイトと同様の解析を行うことにより、日本の代表的な常緑針葉樹林であるスギ林についても季節変動についての知見を深めることができる。 また、スギおよびヒノキについての個葉スケールの分光特性についても順調にデータを蓄積しつつある。これらのデータは個葉スケールでの分光特性の季節変化の理解を進めるとともに、放射伝達モデルの入力パラメータとして、個葉スケールでの群落の間のスケールギャップを埋めて、常緑針葉樹林における分光特性と光合成機能の関係の決定メカニズムについての理解をさらに進めることができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見とデータをもとに、個葉から群落、地域の各スケールでの研究を進め、日本の針葉樹林における光合成生産と分光特性との関係の季節変動について、その生理的・物理的メカニズムからの解明を目指す。 個葉の分光特性の季節を通じた観測を引き続き行い、個葉スケールでの季節変化を明らかにするとともに、群落の放射伝達モデルを利用して、群落スケールの分光特性の季節変動との関係を解明する。また、ヒノキ林において進めてきた植生指数とフラックスの季節変動について、スギ林についても解析を進める。スギ林はヒノキ林と並んで日本の代表的な常緑針葉樹林であることから、この解析は、今後、衛星データを用いた広域解析を進める上で必須となる。 また、本課題で主要なテーマであるフェノロジーは、近年、生態系の生物多様性評価においてもその重要性が認識されており、「必須生物多様性指数(Essential Biodiversity Valuables)」のひとつとなっている。本課題の成果の生物多様性評価研究への利用についても検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
観測機器が故障してしまい、その修理に予想外の費用がかかってしまい、予定していた国内学会での発表に必要な学会参加費と出張の予算が不足してしまったため、これを取りやめた。その結果、確保していた学会参加費と修理費の差額が残額となってしまった。
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