研究課題/領域番号 |
23K11419
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
勝木 陽子 九州大学, 薬学研究院, 助教 (00645377)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | SLX4 / 内因性複製ストレス / lacO-LacI相互作用 / ユビキチン結合ドメイン / SUMO認識モチーフ |
研究実績の概要 |
本研究は、複製ストレス応答機構において重要な役割を担う、DNA修復因子SLX4の異常停止した複製フォークへの局在を制御する分子経路の解明を目的とする。テロメアやセントロメア等、ゲノム上の機能的な長いリピート配列に形成されたDNAタンパク質複合体は、内因性の複製障害の原因となる。複製障害部位にSLX4が集積する分子メカニズムには、比較的よく知られているN末端のユビキチン結合ドメインUBZ4を介した経路以外に、C末端のSUMO認識モチーフ(SIM)を介した経路の存在が近年示唆されている。しかしながら、いずれも複製ポリメラーゼの阻害剤や化学療法剤を用いて解析されており、内因性の複製ストレスに応答してSLX4が停止フォークに集積する分子機構は未解明のままである。 今年度はまず、当研究室で構築された大腸菌由来lacO-LacI相互作用による内因性複製ストレス誘導モデル(lacO-LacIシステム)を用い、UBZ4ドメイン非依存的なSLX4の集積機構の検討を行った。本モデル系において、UBZ4ドメインを有するN末端SLX4(1-900aa, SLX4-N)はLacI結合lacOリピートに効率よく集積する。ところがSLX4-Nはその複合体因子として機能するXPFヌクレアーゼの結合ドメインを有するにもかかわらず、XPFの集積を促進することができず、ドミナントネガティブ変異体である可能性が示唆されている。一方C末端SLX4(901-1834aa, SLX4-C)や、SUMO化阻害剤等を用いて内在性SLX4, XPFの局在を解析した結果、本系においてはSIM依存的なSLX4の集積が重要であることが示されつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、SLX4-NとSLX4-C安定発現細胞を用いて、LacI結合後lacO領域への両変異体の集積のタイムコースを検討した。S期に同調し、リリースと同時にLacI結合を誘導した時点を0時間とし、1-8時間後のLacIとの共局在頻度を調べたところ、SLX4-NはLacI結合部位への集積の経時的な上昇が認められた。一方SLX4-Cは、先行研究で示された内在性のSLX4と同様に、複製ストレス誘導後の集積に顕著な変化は認められず、lacOリピート配列がとりうる二次構造等に集積している可能性もあることが示唆された。 次にユビキチン化、SUMO化経路の活性化酵素E1の各阻害剤を用いて、SLX4-N, SLX4-Cおよび内在性のSLX4, その複合体因子であるXPFの集積に与える影響を検討した。予想した通り、UBZ4ドメインを有するSLX4-Nの集積はユビキチンE1阻害剤で著しく減弱した一方、SIMが存在するSLX4-Cの集積はSUMO E1阻害剤で顕著に減少した。またSUMOタンパク質との結合ができないアミノ酸置換変異を導入したSLX4 SIM変異体は、複製ストレス部位に全く集積できなかった。さらに内在性SLX4とXPFは、ユビキチンE1阻害剤処理によって有意ではあるものの、その集積はわずかに減弱した程度であった一方、SUMO E1阻害剤では著しい集積の低下が認められた。以上の結果から、本系による内因性複製ストレス応答においてSLX4-XPF複合体の停止フォークへの集積は、SUMO-SIM相互作用に依存している可能性が高いことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は予定通り、UBZ4ドメインを欠失し、XPF結合ドメインを有するSLX4変異体(SLX4 393-1539)発現ウイルスベクターの構築とその安定発現細胞の樹立を行い、本システムにおいてUBZ4ドメイン非依存的にSLX4がXPFをリクルート可能かどうか検討する。また、アフィニティー精製ー質量分析法を用いてSLX4のSIMに結合するSUMO化因子やSUMO化に関わるE3リガーゼ等の制御因子の探索を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度必要な物品は、試薬や細胞培養用培地、ピペット等、所属部署で共用で使用するものがほとんどであったため、予定より少ない予算で実施が可能であった。
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