研究実績の概要 |
福島第一原発で発生する大量の放射能汚染水から多核種浄化装置 (ALPS) によってほとんどの放射性物質は除去されているが, トリチウム水だけは分離されず残存している。著者らは,接着性配列と金属認識配列から成るペプチドを用い,標的分子の鋳型をシリカ細孔内キャビティに形成させる分子インプリント技術を開発したが,本研究は,この分子インプリント技術における金属認識配列に酸性アミノ酸を用い,配位水交換反応によって生じるトリチウム水配位コバルト錯イオンを分子インプリントしたシリカ担体 (Co-iPSP) を調製し, 模擬ALPS処理水からのトリチウム水除去について検討するものである。 先ず,金属認識配列を検討して水に易溶なテトラアスパラギン酸配列を見出し,この金属認識配列と接着性配列から成るペプチドを用いてCo-iPSPを調製した。また,日本アイソトープセンターより入手したトリチウム水から模擬ALPS処理水を調製し,この水溶液中でCo-iPSPを調製したところ,酸による脱離洗浄工程において,コバルトの脱離と共にトリチウム放射能の脱離が検出された。これより,トリチウム水はコバルトアクア錯イオンに濃縮されてCo-iPSPに吸着することが示唆された。 次に,Co-iPSPを模擬ALPS処理水に添加し,上清の放射能を液体シンチレーションカウンターにより測定した。その結果,上清の放射能に減少が認められ,減少率はCo-iPSP添加量に応じて増加してCo-iPSP 0.25 g/mL で約13%に達した。なお,コバルト配位水中のトリチウム水濃縮倍率は3,380倍であり, 配位水交換平衡定数は0.426 L/mmol と求められた。また, Co-iPSPのコバルト吸着量からコバルトアクア錯イオンの吸着平衡定数は1,250 L/mmol と求められた。
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