研究課題/領域番号 |
23K11597
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
李 永俊 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (10361007)
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研究分担者 |
石野 卓也 金沢星稜大学, 経済学部, 教授 (10614034)
花田 真一 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (90636458)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 除雪 / 雪害 / 脆弱性 / データサイエンス |
研究実績の概要 |
本研究では,少子高齢化による人口構造の変化と地球温暖化による自然環境の変化に対応し,より快適な冬季の住民生活を維持するために,データサイエンスを駆使し,除雪を科学することを目指している。具体的には,①データサイエンスとQGISのスキルを用いて地域社会の脆弱性を可視化し,②科学的な分析と分析結果に基づく社会モデルの構築,③新たなモデルの社会実装とPDCAサイクルを繰り返すことで,より快適な冬季の住民生活を守る除雪モデルを提示することを目指す。 研究初年度にあたる2023年度には,①データ分析のベースとなるデータの整備と②一次分析を行った。具体的には,青森県に雪害に関するデータ利用申請を行い,基礎データを入手した。そして,弘前市の除雪に関する苦情データを入手し,QGISの地図データに落とし込む作業を行った。また,除雪対策に関する市民アンケートの個票を入手し,デジタルデータ化作業を行った。 一次分析から以下のような結果が得られた。除雪作業が高齢者層に集中しているために,雪害が高齢者に集中していることがわかった。また,除雪作業に人力の依存度が高く,小型除雪機などの普及が課題である点や,除雪における共助の仕組みが働いていないことも明らかになった。空き家については,空き家の増加は除雪に関する苦情を増加させているが,空き家の増減が除雪に関する苦情の増減に直接影響しているわけではないことを明らかにした。さらに,急速な少子高齢化により,自助で行ってきた除雪が自助だけでは難しくなった地域が増加していることも明らかになった。 以上の研究成果は,③研究成果公開のフォーラムを開催し,行政担当者や市民の皆さんと共有した。次年度からは,除雪に関する客観的な評価基準を設定し,その決定要因を科学的な分析する。そして,EBPMに基づくより効率的な除雪の政策提案を検討していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3つのステップで実施する計画である。各ステップの具体的な目標は以下の通りである。 〇第1段階(令和5~6年度前半);除雪をめぐる諸問題を可視化する。具体的には、GIS(地理情報システム)とオープンデータを用いて、一人暮らしの高齢者や障がい者家庭などの除雪困難者を地図上にマッピングする。マッピングした結果は、弘前大学特定教育研究センター・地域未来創生センターのHPや弘前市の広報ツールを用いて地域住民に周知する。そして、年間4000件を超える除雪関連の苦情は、テキストマイニングなどの手法を用いて、類型別に分類し、誰もがわかるような形式でマッピングする。そして、上記と同様な方法で地域住民に公開する。そして、除雪困難者と苦情のマッピングを同じ地図上で表すことで、除雪困難地域と地域住民の苦情とのマッチングクオリティを評価する。 〇第2段階(令和5~6年度);効率的な除雪モデルを構築する。除雪先進自治体を訪問し、具体的な除雪方法、具体的な効果、住民の反応などをヒアリングし、弘前市との比較分析を行う。また、第1段階の諸結果と照らし合わせ、弘前市の除雪の質を比較分析から明らかにする。その上で、ボランティア労働需給モデル、マッチングモデルなどを応用し、新たな社会的互恵モデル構築を目指す。 〇第3段階(令和6年度後半~令和7年度);第3段階では、弘前市、ひろさきボランティアセンター、そして弘前大学ボランティアセンターと連携し、新たに構築した除雪モデルを社会実装する。以上の3段階を通して、問題の可視化、科学的な分析とモデル構築、社会実装とPDCAサイクルを通してより効率的な除雪活動そしてより快適な冬季の住民生活を守る。 研究初年度に当たる2023年度は、上記目標の①を80%以上達成することが出来た。計画通りに進んでおり、おおむね順調と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、除雪に関する市民の苦情を評価指標とし、除雪の効率性を評価しようと考えている。ただし、除雪に関する市民の声は複雑で、市政全般にわたっており、除雪に関するものを具体的に特定することが困難である。2024年度には、苦情データのテキストマイニング分析を急ぎ、苦情の種類を類型化し、より詳細な分析を試みたい。また、情報公開に至っては個人情報保護などの観点を勘案しながら、慎重に進める予定である。市民生活に直結するような部分については、より一層慎重に研究を進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2024年元日に起きた能登半島地震により,研究分担者との研究交流および現地調査が難しくなった。そのため,経費の一部残額が生じた。この繰越金は来年度の研究交流および空き地に関する現地調査費用として使用する計画である。
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