本研究は財政の視点から現代中国の基層ガバナンスの持続可能性を問う継続課題である。基層ガバナンスに関する近年の研究動向は、都市化に伴う利益紛争からデジタルガバナンスと監視社会へとシフトしたが、中長期的な視点に欠け、肝心の財政問題を後回しにする。そこで、本研究では「資金の出所と使い道」の視点で2000年以後の基層研究を再検討した上で、経済停滞とゼロコロナ政策の継続に伴う基層政府の財政難を分析する。具体的には、行政組織の末端である郷(ごう)鎮(ちん)政府と自治組織である村・社区(Community)に焦点をあて、行政コストの視点からその持続可能性を検討する。中国の基層レベルにおける行政コストは政府と社会の双方が負担することで成り立つ。かつては政府がより多く負担する方向へと制度化が進んだが、財政難により逆戻りする動きが見られる。双方の負担率がどのように変化したのか。財政難はガバナンスに如何に影響するのか。本研究は経済発展が進んだ沿海地域での事例研究を中心に、基層ガバナンスの持続可能性の解明に挑む。 2023年度では、統計資料の収集、財政難に関する中国国内の報道を収集する作業に特化した。と同時に、テキスト分析の手法で公式文書における財政難に関わる言葉の言及と変化を分析した。
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