研究課題/領域番号 |
23K11709
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
芝田 悟朗 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究職 (20747026)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ランタノイド / アクチノイド / 分離抽出 / 走査型透過X線顕微鏡 |
研究実績の概要 |
ランタノイドやアクチノイドの効率的な分離法の開発は、レアメタルの精錬やリサイクル技術の開発、および放射性物質の廃棄処理に関連する重要なテーマであるが、これらの化学的性質は互いに類似しているため、いかにして異なる元素を分離するか、その手法の確立が課題となっている。実際に高い元素分離能をもつ有機抽出剤の開発も現在進められているが、その元素選択性のメカニズムについては未解明の点が多い。本研究課題は、数μmサイズ以下の微粒子試料に対して、元素・酸化数・化学結合状態の二次元分布を数十nmの分解能で可視化できる「走査型透過X線顕微鏡」(STXM) を用いて分離抽出されたランタノイド・アクチノイド錯体塩微粒子の電子状態分析を行い、元素選択性がどのような機構で生じているかについて解明を目指すものである。 本年度は、分離抽出剤の一つであるOcTolPTA(以下単にPTAと記す)分子を用いて、ランタノイド元素であるガドリニウム(Gd)およびテルビウム(Tb)を抽出した錯体塩に対するSTXM測定を実施した。結果として、ランタノイド元素GdおよびTbの価数はいずれも3+であることが示された。PTA分子を硝酸イオンに置き換えた試料についても同様の結果であり、ランタノイドイオン側の電子状態変化は比較的小さいことが明らかになった。一方、分離抽出剤側に含まれる酸素(O)および窒素(N)吸収端に対するSTXM測定を行ったところ、N吸収端において、ランタノイド-N混成軌道に由来するピークの強度比に明瞭な変化が見られた。したがって、錯体分子側の電子状態の変化が元素選択性の起源に関係している可能性がある。今後、より精密な測定を行うことによりこのスペクトル形状の変化が本質的なものであるかどうか検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・「研究実績の概要」項で述べた通り、分離抽出剤の一つであるOcTolPTA(PTA)分子のSTXM測定を実施済みであり、錯体分子中に含まれる窒素の電子状態が関係している可能性までを突き止めている。再現性のチェックや詳細な結果の解釈は今後の課題であるが、ランタノイドイオン側と錯体分子側双方の電子状態をSTXMで調べるという当初の目的は一定程度達成できている。 ・この他に、将来アクチノイド元素に対する測定を行うための予備実験として、メンブレン内に密封したウラン含有酸化物の試験的なSTXM測定を行い、実際にウランの吸収スペクトルおよびその位置依存性の観測に成功している。 ・主要な物品の一つである四象限スリット位置決め機構の導入によって、光学調整を以前よりも容易に行うことができるようになっている。
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今後の研究の推進方策 |
・観測されたN吸収端のスペクトルの変化が本質的なものかどうか検証するため、より高いエネルギー分解能および空間分解能での測定、および複数の粒子に対する測定、を通じて再現性の確認を行う。 ・また、既存のSiNメンブレンに含まれる窒素が測定に影響を与えている可能性が捨てきれないため、SiCメンブレンを購入し、それに置き換えた場合に結果が再現されるかを検証する。同時に、メンブレンに金属を蒸着させた光強度モニターを作製し、それによってより高いS/N比で吸収スペクトルを測れるようにする。 ・別の種類のランタノイド元素あるいは錯体分子に変えた場合のSTXM測定を通じて、スペクトルがどのように変化するかについて系統性を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
スリット架台位置決め機構が当初計画で想定していた金額よりも安価で作製できたため、差額が次年度使用額として生じることになった。次年度使用額は、次年度分研究費と合わせて、SiCメンブレン等の必要物品の購入に係る費用として使用する。
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